おやぢの部屋2
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HUMPERDINCK/Hansel and Gretel
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Christine Schäfer(Gretel)
Alice Coote(Hansel)
Philip Langridge(Witch)
Richard Jones(Dir)
Vladimir Jurowski/
The Metropolitan Opera Orchestra and Chorus
EMI/2063089(DVD)



ピーター・ゲルブが支配人に就任してから3期目に入ったMETですが、彼が行った改革の目玉とも言うべき「ライブ・ビューイング」は、なかなかの反響を得ているようですね。これは、ステージの模様をハイビジョンカメラで撮影して映画館などに生配信するというシステムです。けっして、気に入らない歌手に対して大声で文句を言う人を公認するものではありません(それは、「ライブ・ブーイング」)。念のため。
これはアメリカ国内だけではなく、日本の映画館でも行われています(かつては歌舞伎座でも)。ただ、時差の関係で「ライブ」は無理なので、パッケージとなったデータを送っているのでしょう。そして、そのパッケージはこんな風にDVDとなってお茶の間(死語)でも簡単にMETの舞台を体験することができるようになっているのです。
もちろん、そんなオペラのDVDなどはいくらでも出ていますから、今さら、なのですが、このMETのものはいかにも「ライブ」という仕上がりがひと味違います。つまり、「生」配信の時に行っているバックステージの案内などが、ここにもそのまま収録されているのですよ。この「ヘンゼルとグレーテル」の場合は、なんとルネ・フレミングが「案内役」として登場、開幕直前の舞台袖でコメントしたり、休憩中のセットの転換で技術担当の人とのインタビューなどを聞かせてくれているのです。それはとても手慣れた滑らかなもの、おそらく、きちんと台本ができているのでしょうね。
「ヘンゼルとグレーテル」以外の作品は全く知られていないという、いわばオペラ界の「一発屋」エンゲルベルト・フンパーディンクといえば、その名前を借用したポップス・アーティスト(「トム・ジョーンズ」とか「ギルバート・オサリバン」とか、そんな「芸名」が一時はやりましたね)の方がはるかに有名になってしまっている作曲家ですね。なぜか、この人は大昔の英語のリーダーに載っていたものですから、中学生の頃から馴染みがありました。しかも、この作品の抜粋を児童合唱団が上演したものまで聴いていたものですから、その曲自体も馴染みがあったつもりでした。ただ、リーダーでは「ワーグナーの弟子」とあったのに、その音楽がワーグナーとはかけ離れた素朴なものであったのに、疑問を抱く少年ではありましたが。
序曲だけは良く演奏されるので聴いていましたが、そんなわけでオペラ全体をきちんとした形で(とは言っても、このプロダクションはテキストが英語)味わうのはこれが初めてのことでした。そして、積年の疑問はここで氷解することになります。作曲家が用いていたのは、あくまでワーグナー譲りの無限旋律の世界だったのですが、その中にいとも素朴な、殆どドイツ民謡の引用のようなものを巧みに織り交ぜていたのですね。今回のMETもそうですが、この作品は子供に見てもらうことを念頭に置いて上演されることが多いのは、そんな「配慮」のせいなのでしょう。正直、そこまでするのなら、いっそ他の部分ももっと平易に作れば良かったのに、と思うのですが、そこまでは譲れないというのが、作曲家としてのプライドだったのでしょう。その結果、なんとも不思議な「ごちゃ混ぜ」の音楽が出現しているな、というのが、初めて全曲を体験しての偽らざる感想です。
今回の演出は、今までのものとは全く異なる、「食」にこだわったユニークな設定なのだそうです。確かに、最後の幕で子供たちが口のまわりをクリームやチョコレートだらけにして実際にスイーツを頬張っている姿には迫力があります。第1幕で母親が口の中からソーセージを吐き出すシーンと同様、そこには醜い飽食への警鐘が込められているのだとしたら、恐ろしいものがあります。
それよりも、シェーファーの、本物の子供以上に子供らしい姿と演技こそ、最も恐ろしいものだとは思いませんか?
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by jurassic_oyaji | 2008-10-27 19:32 | オペラ | Comments(0)