おやぢの部屋2
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VERDI/Requiem
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Ingrid Bjoner(Sop), Hertha Töpper(MS)
Waldemar Kment(Ten), Gottlob Frick(Bas)
Karl Richter/Münchner Philharmoniker
Philharmonischer Chor München
Münchner Bach-Chor
ALTUS/ALT 156/7



リヒターの指揮したヴェルディのレクイエムなどという珍しい録音が出てきたりひたーのだそうです。以前ご紹介したブルックナーの交響曲のように、彼は決してバッハばかり演奏していたわけではなかったことが、最近になって続々と明らかになってきています。いや、別に隠していたわけではなく、レコード会社がそのようなものに触手を伸ばさなかったのでレコーディングは行われなかったと言うだけの話、コンサートではさまざまなレパートリーを誇っていたのでしょう。
今回CDとなった音源は、世界初出のものです。その素性を聞けば、なぜ今まで発表されなかったのか、自ずと理解できます。これは、放送局などのプロが録音したものではなく、1969年に合唱団のメンバーが趣味で録音したものなのです。その人はオーディオ・マニアだったそうですが、この時代のアマチュアの機材といえば、多寡がしれています。音質面では、あまり多くを期待することはできないでしょう。
案の定、それはとんでもない録音でした。派手なヒスノイズや、かなり目立つ転写は仕方がないとしても、最初のうちはレベル設定がいい加減だったようで、合唱のフォルテは完全に歪んでいます。それに気づいたのか、あわててフェーダーを操作しているようなところも見受けられますね。それよりも問題なのはマイクのセッティング。もしかしたらマルチマイクなのでしょうか、一応ステレオにはなっていますが、バランスが滅茶苦茶なのですよ。合唱だけがやたら大きくてソリストは最初の頃はあまり聞こえてきません(これも、途中で修正はしているようです)。もっとひどいのはオーケストラ。打楽器あたりが突拍子もないレベルで入っていて、木管などは殆ど聞こえません。もちろん、全体の音がまとまって聞こえてくることもありません。
そんなひどい、到底商品としては通用しないものが発売されたのには、この録音を後生大事に保存していたリヒターの遺族のたっての希望があったからなのだと言います。バッハ以外のレパートリーでも素晴らしいものを残していたことを、ぜひ知ってもらいたい、という気持ちだったのでしょうか。
確かに、そんな劣悪な録音にもかかわらず、ここからはリヒターの尋常ではない気迫を感じ取ることは可能です。それは、主にソリストに対して、決して外面的にはならない押さえつけた表現が要求されていたことをうかがわせるものでした。特に、メゾ・ソプラノのヘルタ・テッパーの深い響きから生まれる深刻な情感は、何よりも圧倒されるものです。他のソリストも目指すところは同じ、この4人が一緒に歌うアンサンブルでは、微妙なピッチのズレによる暗いハーモニーと相まって、とことん落ち込みを誘われる気分になってきます。そう、それはまさに「死んでしまいたくなる」ような気分、ヴェルディからそんなものを引き出すなんてこと、リヒター以外に出来るはずがありません。
合唱は、そもそも最初の出だしからとてつもない音程で驚かせてくれますから、なにも期待出来ないことは分かっていました。当然のことながら、プロのソリストとは違って指揮者の要求がストレートに伝わることもなく、不必要にノーテンキな一面をさらけ出してリヒターが望んだものとはおそらくかけ離れた仕上がりとなっているのではないでしょうか。
ただ、アマチュアのミキサーが作ったデタラメなバランスからは、思いがけない効果が生まれることになりました。「Dies irae」でのグラン・カッサが信じられないほどの迫力で録音されているために、それはまさに恐怖を呼ぶほどの音響となっているのです。あたかも聴くものを死の世界へ引きずり込むほどの力を持つもののように、それは聞こえます。
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by jurassic_oyaji | 2008-10-29 20:15 | 合唱 | Comments(0)