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オーケストラの経営学
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大木裕子著
東洋経済新報社刊
ISBN978-4-492-50188-7


オーケストラも「企業」である以上、健全な「経営」を目指すためには、一般社会のやり方にのっとった戦略が必要である、という論調には、何度となくお目にかかっていたはずです。ところが、この本ではその全く逆の立場に立った論理が繰り広げられています。企業として、オーケストラという組織に学ぶべきことはないのか、という、ちょっと今までには見られなかった視点は、確かに新鮮です。
そんなユニークな発想は、著者の経歴を見れば納得が出来ます。彼女はそもそもは音大(しかも藝大!)を出たプロのヴィオラ奏者、プロのオーケストラの団員を経てフリーの奏者になった後、経営学を修めて大学の先生になった、という興味ある道をたどった方だったのです。
そんな彼女が著したこの本は、間違いなく「企業」のサイドの人に読まれることを想定して書かれているものです。したがって、本論に入る準備として、オーケストラや指揮者、それをとりまく教育や社会についての基礎知識が述べられることになります。その部分はかなりの割合を占めていて、まるでそれが本論であるかのように懇切丁寧な解説が繰り広げられます。その結果、ここは、例えば茂木大輔などのベストセラーに見られるものと同程度の、間違いなく現場を体験した人でなければ書くことの出来ない「正確な」描写に満ちあふれることになりました。そう、そこには、その部分だけでも充分に1冊の著作として成立出来るほどに、膨大な情報が詰まっているのです。
その「正確」さの中で語られる、例えば音大生の卒業までにかかる経費、そして、その先の「リクルート」までに及ぶ実態は、まさに説得力のあるものです。莫大な資金を投じたとしても、それに見合うだけの収入が得られる職に就くことは、極めて確率の低いことが、ここでは明らかになります。結局、音楽家が求めるものは芸術家としての自己満足、そもそもそのような損得勘定などは念頭にない、ということなのでしょう。
面白いのは、そのような音楽家が満足を得られる場として、アマチュアオーケストラが挙げられていることです。著者によれば、日本のアマチュアオーケストラのレベルは、なんと「世界一」なのだとか、しかも、その数は学生オケを含めると700以上もあるというのですから、「プロ」にはなれなかった音大生の受け皿としては恰好の存在だと述べられているのです。
秀逸なのは、そのセクションの最後にある、「指揮者」の評定です。これは、後に一般企業における経営者とは微妙に異なる統率者として登場するだけに、その分析は詳細を究めます。彼女は、トスカニーニ、フルトヴェングラー、カラヤン、そして小澤征爾の4人について、「音楽的才能」、「肉体的な強さ」、「心理学的能力」、そして「政治的能力」の4つの「パワー」を四角形のグラフによって比較しています。それによると、各項目に万遍なくポイントを獲得してきれいな正方形になっているのがカラヤン、フルトヴェングラーは、「音楽的才能」はカラヤンを上まわるものの、「政治的能力」でポイントが低いために歪んだ菱形になってしまっています。小澤はカラヤンよりはひとまわり小さな正方形、とか。
これらの部分では、「オーケストラ」サイドの人にとっては煩わしいほどの注釈が、この本がまさにそんなものとは無縁な人を対象にしたものであることを物語っています。したがって、本論であるはずの「経営」セクションに入ると、その注釈は殆どなくなってしまうのは当然のことなのでしょう。「トレードオフ」などという未知の言葉が飛び交う世界は、まさに「オーケストラ」にとっては異次元なのです。スーパーで売ってますよね(それは「トレー豆腐」)。
でも、135ページにある「RCB」というのは、もちろん「RCA」の誤植であることぐらいは、「経営」に疎いものでも分かりますよ。
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by jurassic_oyaji | 2008-11-08 20:51 | 書籍 | Comments(0)