おやぢの部屋2
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PAISIELLO/Il Barbiere di Siviglia
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Mirko Guadagnini(Conte d'Almaviva)
Donato Di Gioia(Figaro)
Stefania Donzelli(Rosina)
Maurizio Lo Piccolo(Don Bartolo)
Rosetta Cucchi(Dir)
Giovanni Di Stefano/
Orchestra da Camera del Giovanni Paisiello Festival
BONGIOVANNI/AB 20009(DVD)



「セヴィリアの理髪師」と言えば、1816年に作られたロッシーニの作品が有名ですね。もともとはフランスの劇作家ボーマルシェが1775年に作った戯曲を元に作られたオペラなのですが、原作では後日談として作られた「フィガロの結婚」を、ご存じモーツァルトが作曲したのが1786年であることから、「なぜ、オペラでは作曲の順序が逆なのか?」という疑問が湧くことになります。そんな時に、「じつはね、ロッシーニよりずっと前、1782年に、パイジエッロという人がすでにオペラを作っていたんだよ」と優しく諭すのが、クラシックマニアの密かな楽しみでした。しかし、今ではこのパイジエッロ版「理髪師」にも何種類かのCDが登場し、実際に日本人による公演なども行われるようになって、そんなささやかな楽しみは失われてしまいました。
しかし、オペラとしての上演の模様が映像として商品化されるのは、これが初めてのことになります。2005年に、パイジエッロの生地であるターラント(「ダーラント」というノルウェーの船長とは無関係な、南イタリアの都市)で開催された「ジョヴァンニ・パイジエッロ音楽祭」における、この作品のクリティカル・エディション(フランチェスコ・パオロ・ルッソによる)を用いての世界初演の模様が、このDVDには収められています。これによって、今まで話のネタとしては知っていたこの作品の全貌が、初めて、誰にでも味わえることとなりました。
画面に現れたのは、ターラントにある「オルフェオ劇場」という、小さなオペラハウスです。一応バルコニーもある馬蹄形の劇場ですが、ステージの間口はかなり狭いもので、舞台装置も至極簡素、大きな転換などは行われません。オケピットもかなり狭そう、オケは下の方にいて姿は見えませんが、指揮者だけはほとんど全身が客席から見えています。そこで始まった序曲は、まるでモーツァルトそっくりの音楽でした。パイジエッロはこのオペラを、当時滞在していたロシアのサンクト・ペテルブルクで作ったのですが、ですから、このような音楽の様式と言うものは別にモーツァルト固有のものではなく、当時のヨーロッパ全体でごく一般的に広まっていたものであることが、ここでも確認出来ることになります。
アリアにしても、例えばアルマヴィーヴァ伯爵によって歌われるテノールのアリアなどは、モーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」の、ドン・オッターヴィオの持ち歌と差し替えたとしてもなんの違和感もないだろう、というほどの似通ったテイストをたたえたものでした。
あらすじはもちろんロッシーニ版と全く同じなのですが、台本の細かいところ、したがってアリアの歌詞などはかなり違っています。パイジェッロの場合はボーマルシェのものをほぼ忠実にイタリア語に訳した台本なのですが、ロッシーニでは、台本作家がかなり自由に書き換えている、というのが、その違いの理由です。ですから、フィガロが登場する時も「俺は街の人気者」みたいな華やかなものではなく、もっと地味に自分の生い立ちを語るようなものになっています。ただ、ドン・バジーリオが歌う「陰口はそよ風のように」などは、同じ趣旨のアリアとなっています。
面白いのは、この演出だけのことなのかもしれませんが、ロッシーニには登場しないマルチェリーナが、歌を歌わない役で登場していることです。「フィガロの結婚」では、彼女はかつてドン・バルトロの女中で、バルトロが手を付けて生まれた子供がフィガロだったことが明らかになるのですが、確かにバルトロの屋敷にマルチェリーナはいたんですね。ですから、これを見ていた当時の聴衆は、すんなり「フィガロ」に入っていけたことでしょう。
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ところで、このジャケットには、そのマルチェリーナも含めた主要キャストが全て写っていますが、右端のフィガロだけ、異様に小さくないですか?実は、彼はこのシーンには登場してはおらず、この画像だけは他から挿入して合成したものなのです。実際のステージとは異なる写真を使うのは、「トリスタン」以来のこの「業界」の伝統のようですね。
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by jurassic_oyaji | 2008-11-10 19:48 | オペラ | Comments(0)