おやぢの部屋2
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MARTÍN y SOLER/Una cosa rara
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Joan Enric Lluna/
Moonwinds
HMC 902010



モーツァルトと同じ頃に活躍していたスペイン出身の作曲家マルティーン・イ・ソレルの作品は、こちらで一度、そのモーツァルトのおまけのようにご紹介したことがありました。その時の曲が「『コサ・ララ』のテーマによるディヴェルティメント」でしたが、今回はその元になったオペラ「コサ・ララ」のハルモニームジークです。当時流行っていたオペラの中の曲を木管合奏の形に編曲して多くの人に聴いてもらうという、録音などなかった時代の大衆伝達のツールが、この「ハルモニームジーク」ですが、そんな編曲を一手に引き受けていた売れっ子アレンジャー、ヨハン・ネポムク・ヴェントが、ここでも編曲を担当しています。
ダ・ポンテの台本による「ウナ・コサ・ララ(椿事)」は、初演の時には、先に上演されていたモーツァルトの「フィガロ」を打ち切りに追いやったほどの人気を博したオペラだったそうですが、現在では全く忘れ去られ、おそらく全曲を録音したCDなども存在していないはずです。ですから、実際にそのオペラを聴くすべのない我々は、まるで18世紀にタイムスリップしたように、この木管合奏のプロモーション版で曲の姿をうかがい知るという体験を味わうことになるのです。
元のバージョンがどの程度のものだったのかは分かりませんが、ここで録音されているものでは、全2幕、18のナンバーから成るオペラ中の、10のナンバーが演奏されています。そこで、6/8(たぶん)の流れるように快活な序曲に続いて、「4番」の「Più bianca di giglio」というアリアが出てくるのですが、これはそれこそ「フィガロの結婚」の中の「恋とはどんなものかしら」と非常によく似たテーマなのには驚かされます。単なる偶然なのか、あるいは故意にパクったのかは知るよしもありませんが、モーツァルトがすかさず次作の「ドン・ジョヴァンニ」でお返しの「引用」を行っているのは、なにかほほえましいというか、子供じみているというか・・・。
その「引用」とは、ご存じ、第2幕フィナーレでの宴会のバンダが、「コサ・ララ」からの「O quanto un sì bel giubilo」というアリアからの旋律を演奏する、というものでした。それを聴いたレポレッロが「ブラヴォー!コサ・ララだ!」と歌うことで、このオペラの存在が今の我々にも認識できる、というシーンでしたね。それは、前回の「ディヴェルティメント」で、同じ旋律がしっかり聞こえてきたことで確認は出来たわけです。それは「前回までのあらすじ」。ところが、その「ディヴェルティメント」には、実はそのアリアの「Aメロ」しか使われていなかったことが、今回のハルモニームジークを聴いて知ることが出来ました。つまり、原曲はその「Aメロ」のあとに、ちょっと暗めの「Bメロ」が続くのですね。そして、そのメロディは、レポレッロが主人の食事の様子を見て「なんて醜い食欲なんだ!」と絶句する部分そのものではありませんか。つまり、「前回」までは、「Aメロ」だけが引用で、その後に続くこのセリフの部分はモーツァルトのオリジナルだと思っていたのが(この絶妙の「暗い」転調は、まさに彼の音楽の本質的なテイストではないでしょうか)、ぜ~んぶマルティーン・イ・ソレルの曲だったなんて。またここでも、過大な「モーツァルト・ブランド」への戒めを味わったような気がします。
7曲目に入っている「Dammi la cara mano」という曲を聴くと、モーツァルトの「お返し」はそれだけでは済まなかったのではないか、というような気にはなりませんか?それは、そのあとの作品「コジ・ファン・トゥッテ」での、フェランドとグリエルモとのデュエットとなんとよく似ていることでしょう。
このようにして、モーツァルトは同じ時代の同業者から、多くのものを「学んで」いたのですね。
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by jurassic_oyaji | 2008-12-14 19:53 | 室内楽 | Comments(2)
Commented by TOMO at 2008-12-26 00:51 x
いつもヨダレを垂らしながらボキャブラリーあふれるCD紹介を拝見させていただいております初代キング・オブ・エアーコンダクターwのTOMOと申します。
いよいよソレルの「椿事」(よく「珍事」と訳されますね)まで取り上げられるとは・・・驚きです。ただせっかくのすばらしいレビューだったので、もしご存じなければと打ち込んでしまいました。

> おそらく全曲を録音したCDなども存在していないはずです。
とのことでしたが、なにを隠そうあのサヴァールが全曲のライブ録音を残しております。歌手は勉強不足でぜんぜん存じ上げない皆様ではございますが、珍し物好きの小生が購入にいたっていないのはひとえにその値段によるところ大であります。いつも9,000~1万円あたりをうろちょろしているCDでは手が伸びません。
おやぢの部屋に掲載されているCDを「よし!」と買いにいく小心者にはこのサイトは非常に助かります。これからも楽しいオヤジギャグと共に才気あふれるCD紹介をよろしくお願いいたします。

ちなみにリンク先のURLにそのCDを貼っておきました。
ご参考いただければ幸いです。
Commented by jurassic_oyaji at 2008-12-26 16:31
TOMOさま、とても貴重なコメント、ありがとうございました。
そうですか、サヴァールですか。盲点でした。主役(おそらく)を歌っているモンセラート・フィゲーラスは、確かサヴァールの奥さんですよね。

自分の趣味しか反映されていないマニアックなレビューが、他の人のお役に立っているなんて、無上の幸せです。とても励みになりました。ありがとうございます。

エアコンの道も、ご精進になって、世界一を目指して下さい。