おやぢの部屋2
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Spellbound
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Sharon Bezaly(Fl)
Mario Venzago/Gothenburg SO
Anne Manson/Swedish Chamber O
Martyn Brabbins/Royal Scottish National O
BIS/CD-1649



確か以前Nordic Spellというタイトルのアルバムを出していたはずの、ベザリーの最新作です。そんな「スペル」シリーズ、前作と同じ、彼女のために作られたフルート協奏曲を、それぞれの作曲家の立ち会いの下に録音した、というゴージャスなものです。今回はソフィア・グバイドゥーリナ、たかの舞俐、サリー・ビーミッシュという、女性の作曲家ばかりのラインナップである点にもご注目。もはや男は「棄てる」ものなのだとか。
実は、グバイドゥーリナの「The Deceitful Face of Hope and Despair」という作品は、以前こちらでご紹介したものと全く同じ音源です。カップリングを変えての使い回しというほかに、以前はSACDだったものが、ここでは普通のCDになっている、という違いがあります。せっかくですから聴き比べをやってみましたが、その違いは歴然たるものがありました。CDになったとたん、SACDで味わえた立体感が、全く失われてしまっているのが良く分かります。今や、このレーベルの録音はDSDとはいかなくても全てがハイビットPCMレベルの仕様になっているのですから、なぜハイブリッド盤を出さないのか、不思議です。もちろん、このヴァレーズのパクリにすぎない作品には、さらにCDで聴き直すだけの価値など全くありません。
このレーベルから世界に羽ばたいたたかのさんの新作は、師であるリゲティへの思い出として作られました。そこにはいかにもリゲティ風の混沌も見られますが、やはり彼女の本来の資質である他ジャンルからの引用が見事にこなれて散りばめられているのが、心地よい興奮を誘います。3つの楽章に別れている最初の部分「シカゴ」では、なにやら緊張をはらんだ恐ろしげな雰囲気の中から、突然ジャズのイディオムが登場したりと、彼女の感性は健在です。真ん中の部分のタイトルが「The Only Flower in the World」、つまり「世界に一つだけの花」というのは、まさしくそのタイトルの槇原敬之のヒット曲からの借用だということです。とはいっても、あの陳腐でかったるいメロディが登場するわけではなく、その歌詞の持つ世界を音楽的に昇華させたもののようですが。しかし、この明るいワルツの中にそれを感じるのは、かなり困難な気はします。そして、最後の部分は「Walking」というタイトル。彼女なりの意味が込められているのでしょうが、その中で現れる「ウォーキング・ベース」が、最も直接的にそれを語っているのではないでしょうか。
最後の「Callisto」というフルート協奏曲を作ったサリー・ビーミッシュは、エミリー・バイノンが委嘱した作品を、以前に聴いていたはずです。これは、そういう名前の妖精の物語を、4種類のフルート(ピッコロ、普通のフルート、アルト・フルート、バス・フルート)で吹き分ける、という趣向です。色彩的なオーケストレーションも手伝って、この中では最もストレートに楽しめる曲に仕上がっています。中でも、バス・フルートの不気味な響きが、意外なほどのアクセントとなっています。
今の時代、これほどまでに、世界中の作曲家から新曲を託され、それらが直ちにオーケストラを使って録音される機会に恵まれるというフルート奏者など、ベザリー以外には見当たらないのではないでしょうか。そんな「特権」に、彼女は充分に応えているかに見えます。しかし、その中に常に漂う物足りなさのようなものは、一体何なのでしょうか。なによりも、彼女の演奏を通してこの現代のフルート音楽がどんなところを目指しているのかがさっぱり伝わってこないのは、作曲家のせいなのでしょうか。あるいは演奏家のせい?はたまた「レーベル」?
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by jurassic_oyaji | 2008-12-20 20:11 | フルート | Comments(0)