おやぢの部屋2
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Mr. Vocalist
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Eric Martin
ソニーミュージック/SICP 2091


去年の末あたりに、ラジオからなんか聴き覚えのある曲がたびたび流れていました。いわゆる「洋楽」と呼ばれている外国のポップス(しかし、今ではすっかりお馴染みになってしまったこの業界用語には、いつまで経っても違和感が伴います。なんせ、日本のポップスは「邦楽」というのですからね)の新譜、男声のボーカルはもちろん英語で歌っているのですが、メロディが確かにどこかで聴いたことがあるものだったのです。しばらく聴いているうちに、それは昔今井美樹が歌っていた「PRIDE」であることが分かりました。つまり、布袋寅泰の曲を、歌詞だけ英語に直して外国のアーティストがカバーしていた、というわけです。以前、竹内まりやの曲をやはり外国人がカバーしたアルバムをご紹介したことがありますが、それと同じケース、ここでも、なぜかオリジナルは女性が歌っていたものばかりが集められています。
今回、そんな「逆カバー」(これもいやな言葉です。つまり、本来の「カバー」は、あくまで外国の曲を日本人が「真似」をしたもの、という思想の現れです)に挑戦したのは、かつて「MR. BIG」というアメリカの人気バンドでボーカルを担当していたエリック・マーティンです。このバンドが2002年に解散してからはほとんど表だった活動はしていなかったものが、いきなりこんな日本制作盤に登場、かつてのファンの間ではちょっとしたサプライズを呼んでいるアルバムです。そう、これはあくまで日本のスタッフによって作られたカバー集、残念ながら、外国の人が主体的にカバーを作りたくなるような作品は、まだ日本にはありません。
ここでエリックが歌っているのは、ちょっと前に大ヒットした曲ばかり、「今の歌」には鈍感なおやぢでも、全て、どこかで必ず聴いたことがあるはずです。中には小柳ゆきのように、非常に歌がうまくて将来が楽しみだったのに、いつの間にかシーンから姿を消してしまっているような人もいますが(いえ、実は稲垣潤一とのコラボで、杏里の曲をそれこそ「カバー」しているのを聴いて、密かに安心しているのですがね)、アーティストもバリバリのヒットメーカーが勢揃い、ある意味「懐メロコンピ」の様相です。
そんな、耳に馴染んだ曲ばかりですから、それがオリジナルの女声ではなく、男声、それも、決してソフトとは言い難いロック・ボーカルで歌われると、全く別の曲のように感じられてしまうのは、単に歌詞が英語だという理由だけではないはずです。おそらく意識的に、あえて元のアレンジを踏襲しているにもかかわらず、彼の骨太なボーカルからは、原曲たちの持つ「女性の繊細さ」などは全く感じ取ることは出来ず、もっと逞しい「男の魂」のようなものが伝わってきます。
それがちょっと度が過ぎて、オリジナルの魅力を失わせてしまったのが、中島美嘉の「雪の華」ではなかしま。この曲の中で最もキャッチーなフレーズ、サビの頭「♪今年、最初の雪の華を~」の「は-なを」という五度上昇の音型は、彼女のはかない歌い方と相まって、見事に悲しいほどの「女の溜息」を表現しています。しかし、エリックはこの部分、オクターブ下のコーラスをつけるだけでなく、その五度上昇を二度下降に変えて、「溜息」とは全く無縁なフレーズに変えてしまったのです。
反対に、平原綾香の「Jupiter」のように、良く言えば「透明な声」、実は内容の全くない、どうしようもなく空虚なオリジナルの世界が、エリックの声によって見事に変貌を遂げたという嬉しいものもあります。ご存じ、元ネタはホルストの「木星」のとてつもなく広い音域のテーマ、それを機械的に歌った平原バージョンでは、見事に低音域が死んでしまっています。そこにエリックは、確かな命を吹き込んだのです。とても出やしない「ハイC」に果敢に挑戦している汗まみれのかっこわるさ、これこそが、「男」の美しさではないでしょうか。

CD Artwork © Sony Music Japan International Inc.
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by jurassic_oyaji | 2009-01-05 20:33 | ポップス | Comments(0)