おやぢの部屋2
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TORMIS/Works for Men's Voices
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Sofia Söderberg Eberhard/
Svanholm Singers
TOCCATA/TOCC 0073



あるいは「男声合唱」と言われて連想するものによって、その人の音楽的なバックグラウンドや、感受性の「ツボ」などが分かってしまうのかもしれません。ある人は、ロシアの広大な大地を思い起こさせるような力強いベースの響きと、叫びまくるテナーの咆哮といった、まさに「体育会系」のイメージを抱くことでしょうし、またある人は、男声だけで編成されていることによって生まれる、えも言われぬピュアなサウンド、まるで大聖堂の中で響き渡るような豊かな倍音の世界を思い浮かべることでしょう。逆に言えば、それほどまでに、「逞しさ」から「繊細さ」までの幅広い嗜好をカバーしているのが、男声合唱というものなのです。
もちろん、一つの団体でそれだけの幅広い属性をそなえることなどは、不可能であるに違いありません。「逞しさ」は、時として「粗野」につながるもので、「繊細」からはまさに対極に位置するものなのですからね。しかし、まれにそんな奇跡のような表現力を持っている男声合唱団に出会えないとも限りません。例えば、スウェーデンの名門、「オルフェイ・ドレンガー」などは、ほとんどその条件を満たした合唱団のように思えます。彼らが日本公演で披露してくれた武満の「小さな空」は、まさに男声合唱にはあるまじき繊細さを持っていました。ただ、一方で間宮芳生の「コンポジション」で見せてくれた「粗野さ」も、かなりのものではあったものの、もうひとふんばりの弾けぐあいが欲しかったのは、事実です。
同じスウェーデンの男声合唱団「スヴァンホルム・シンガーズ」は、もしかしたらそんな「奇跡」を現実のものにしている希有な団体なのかもしれません。1998年、往年の名テノール、セット・スヴァンホルムの娘エヴァ・スヴァンホルム・ブーリーンによって創設された20人ほどの若いメンバーから成るこの合唱団は、2001年から指揮を引き継いだソフィア・ソダーベルク・エバーハルトの下で、殆ど理想的と言って良いほどの男声合唱団に成長したことが、このCDから分かるはずです。
このアルバムは、エストニアの雄、ヴェリヨ・トルミスの作品を集めたものです。確かに鳥の巣のようなヒゲですね。合唱曲の分野で幅広い曲を作っているトルミスですが、ここではなんとトルミス自身がシャーマン・ドラムの演奏で参加しています。それが、元々は混声合唱のための作品だった「鉄を呪え」の、男声バージョン(これが、世界初録音)です。その、まるで原始宗教の典礼のような重々しい響きのドラムに導かれて、深遠な世界を持つ歌詞(「鉄」は「武器」のメタファー)が、あたかも呪文のように歌われるさまの、なんと「粗野」なことでしょう。オルフ風のオスティナートに乗ったその合唱は、時には囁き、時には叫びとなって、確かな「力」を放っているのです。そして、その対極のテイストを存分に味わえるのが、そもそもキングズ・シンガーズという洗練されたグループのために作られた「司祭と異教徒」です。まさに、中世の教会で響いていたであろうサウンドの模倣、ここで聴くことの出来るパートの違いを感じさせない均質な音色は驚異的です。
このジャケット写真(ミニスカート姿の指揮者のかわいいこと)が東京オペラシティのステージであることからも分かるとおり、彼らは何度となく日本を訪れてきました。その演奏に接する機会のあった人たちはすでに彼らの魅力に気づいていたのでしょうが、あいにく録音として世に出ていたものはごく狭い販路での流通にとどまっていたために、それが広く知られることは殆どありませんでした。しかし、2007年にリリースされたこのCDは、注文さえすれば確実に入手出来るレーベルのものですので、実際にこの「奇跡」を体験することは造作もないことです。もっとも、聴くだけでしたらこちらでもOKですが。

CD Artwork © Toccata Classics, London
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by jurassic_oyaji | 2009-01-15 23:15 | 合唱 | Comments(0)