おやぢの部屋2
jurassic.exblog.jp
ブログトップ | ログイン
男と女 Two Hearts Two Voices
男と女 Two Hearts Two Voices_c0039487_201386.jpg




稲垣潤一
ユニバーサル・ミュージック
/UICZ-4187


先日のエリック・マーティンのところで少し触れた、稲垣潤一のカバー集です。なんとも刺激的でうらやましいジャケットですが、もちろんこれは、このアルバムが単なるカバー集ではなく、全てのトラックが女性ヴォーカリストとのデュエットとなっている、というコンセプトのあらわれです。しかも、収録されている11曲全ての相方が異なるという、超うらやましいラインナップ、稲垣さんって、そんなにモテたんですね。あの顔で。
その11人が、松浦亜弥をのぞいては、いずれも今のシーンからはちょっと距離を置いたところにいる人ばかり、というあたりに、なんとも微妙なものを感じないわけにはいきません。いや、そんなことを言えば、稲垣さんだって今ではクリスマス以外で注目されることなど、殆どないようなアーティストなのかもしれませんが。
正直、稲垣さんの歌自体には、それほどの魅力があるわけではありません。ソロとしての声に、惹きつけられるものが殆どないのですよ。同じような感じの声である小田和正にはあって稲垣さんにはないもの、それは声自体が放つ存在感ではないでしょうか。
ところが、そんな存在感の希薄な声が、他の人の声と混じり合ったときには、なんとも言えぬ美しい響きをもたらすのですね。単体で存在しているときにはあるのかないのか分からない窒素ガスが、酸素や炭素と結び付いたときにとてつもない破壊力を持つダイナマイトに変貌するようなものでしょうか。
そんな素材の良さを最大限に発揮しているアレンジのコンセプトは、「男」と「女」が、全く対等にパートを分担している、というものでしょう。お互いがそれぞれソロを歌い、ハモリに入ったときにもメロディとハーモニーは同じ長さの分担、そのハーモニーも上に付けたり下に付けたりと、さまざまなパターンが1曲の中に用意されているという、幅広いヴァラエティ、さまざまな面から二人の声を楽しめるような工夫がなされています。時にはシンガーの声に合わせて、パートが変わる部分で大胆な転調を行うこともいといません。ほんと、2小節ごとにメロディパートが入れ替わるなどという大胆なこともやっている、すごいアレンジもあるのですからね。
シングルカットもされている小柳ゆきとの「悲しみがとまらない」が、まず期待通りの素晴らしさでした。ノリの良いオケと相まって、小柳ゆきの歌のうまさが光るとともに、ハモリになった時の滑らかさも素敵です。小柳のソウルフルなカウンター・メロディも、花を添えています。
白鳥英美子(+娘のマイカ)との共演は、なんとほとんど「新曲」と言っても良い、竹内まりやの「人生の扉」です。オリジナルのカントリーっぽいテイストを生かしたアレンジに乗って、まりやのように深刻ぶらない、もっと爽やかな「加齢ソング」が、華麗に繰り広げられています。
意表をつかれたのは、「木綿のハンカチーフ」です。最初聴いた時には、まさか太田裕美本人が歌っているとは思えなかったのは、キーが違うのか、「♪ぼくは旅立つ」の「つ」の音がファルセットではなかったからなのかもしれません。最近の懐メロ番組で歌う時には大幅に、それこそ演歌のようなルバートが付けられていたものが、まさに原点に返ったかのようなイン・テンポ、曲と歌詞の素晴らしさが再確認出来ます。「男」と「女」の対話という松本隆の仕掛けにあえて背いた、ジェンダーを超えた歌詞と歌い手の世界が感動的に広がります。
そして、最後に控えているのが、稲垣さん自身のヒット曲というわけです。「ドラマティック・レイン」で相手を務めるのが中森明菜。彼女がこんな素晴らしいシンガーだったなんて、予想もしなかった驚きです。そう、稲垣さんの窒素原子は、相手の中にもニトロ基を生成させていたのですよ。

CD Artwork © Universal Strategic Marketing Japan
by jurassic_oyaji | 2009-01-21 20:02 | ポップス | Comments(0)