おやぢの部屋2
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ROMAN/Twelve Flute Sonatas
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Verena Fischer(Fl)
Klaus-Dieter Brandt(Vc)
Léon Berben(Cem)
NAXOS/8.570492-93



この作曲家の名前はJohan Helmich Romanですから、普通に読めば「ヨハン・ヘルミッヒ・ローマン」と発音するのでしょうが、あいにくこの方はスウェーデン人、実際は「ユーハン・ヘルミク・ルーマン」となるのだそうです。なんだか、リストラにあって晩ご飯もまともに食べられなくなってしまった人みたい(「夕飯、減る肉」)。
1694年の生まれですから、バッハやヘンデルよりちょっと後に生まれたという、バロック時代の作曲家です。当時、音楽的には(あ、もちろん、イタリアを中心にした音楽、ということですが)辺境の地であったスウェーデンでの、言ってみれば最初の大作曲家という位置づけがなされている人です。彼にとってヘンデルは、まさに「アイドル」的な存在でした。1720年から5年ほど、イギリスに「留学」、そのヘンデルのオーケストラの第2ヴァイオリン奏者として直接彼の音楽に触れ、自身も作曲家としての修練に励みます。
この12曲のフルートソナタ集は、そんなイギリス時代から始まって、スウェーデンへ帰国した頃までの間に作られたものとされています。彼の作品は、ほとんど自筆稿としてしか残ってはいませんが、このフルートソナタ集だけは1727年に出版され、国内だけではなく外国でも販売されたそうです。いかにもヘンデルのような作風(実際に、ヘンデルのソナタからの引用もあるようです)も感じられますが、舞曲を素材にした多楽章形式のそれぞれのソナタには、なにか鄙びた田舎の情景のようなものも感じられはしないでしょうか。5つの楽章から成る「第10番」の真ん中の楽章「Piva」などは、チェロがまるでドローンのようにフルートに絡みつくという、当時のストリート・ミュージックを彷彿とさせるものです。
演奏には、もちろんオリジナル楽器が使われています。しかし、ここでトラヴェルソを吹いているヴェレーナ・フィッシャーの経歴を見てみると、彼女はまずモダン・フルート奏者としての修練を、グラーフやニコレに師事することによって、かなり高いレベルで積んでいたことが記されています。実際、オーケストラの首席奏者としての経歴も輝かしいものがあります。しかし彼女は、ある時なぜかフラウト・トラヴェルソの魅力に取り憑かれ、ハーツェルツェット、クイケン、ヒュンテラーといったそうそうたるトラヴェルソ奏者たちの教えを受けることになりました。そして、1996年から2006年までは、そのハーツェルツェットの後任として、「ムジカ・アンティカ・ケルン」のトラヴェルソ奏者を務めています。
そんな彼女の演奏、普通のトラヴェルソ奏者の演奏を聴き慣れた耳には、かなり奇異に映るのではないでしょうか。おそらく、彼女はモダン・フルートのテクノロジーを、このオリジナル楽器にも適用しようとして、最大限の努力を払っているのでしょう。そこから聞こえてくるのはまさにモダン・フルートそのものの豊かな響きを持った音だったのです。場合によってはビブラートの助けを借りて、さらにパワフルな音を出すことさえ厭いません。低音の力強さなどには、信じがたいものがあります。
そのような試みは、実はオリジナル楽器の黎明期には確かに行われていたことがありました。例えば、こちらでその生々しい現実が味わえるように、当時はまだまだ楽器自体や奏法の研究が完全ではなかったために、今にして思えばなんともちぐはぐな演奏が平然と行われていたのです。それとかなり似たものが、この時代になって現れたことについては、どのようなスタンスで立ち向かえばよいのでしょう。それは、オリジナル楽器に於けるスタイルの幅が広がったと考えるには、あまりに唐突すぎる出来事ではないでしょうか。これは単に、モダン・フルートの奏法を完全に棄て切れていない演奏家の勘違いであることを、切に願いたいものです。少なくとも、この堂々たる音の中では、彼女の楽器の音程の悪さだけが異様に目立ってしまっています。もちろん、そこからはあの時代の香りなど、嗅ぐべくもありません。実際にこちらで、それを嗅いでみられては。

CD Artwork © Naxos Rights International Ltd.
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by jurassic_oyaji | 2009-02-06 19:53 | フルート | Comments(0)