おやぢの部屋2
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BACH/Brandenburg Concertos
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Richard Egarr/
Academy of Ancient Music
HARMONIA MUNDI/HMU 807461.62(hybrid SACD)



「アカデミー・オブ・エンシェント・ミュージック」とは、なんとも懐かしい名前です。確か、国内盤では「エンシェント室内管弦楽団」などといういい加減極まりない訳語で呼ばれている団体でしたね。クリストファー・ホグウッドによって1973年に作られたこの「アカデミー」、オリジナル楽器による演奏によって、確かな地平を開拓したまさにエポック・メイキングなオーケストラとして、記憶に残っているものです。1980年頃に行った初のオリジナル楽器によるモーツァルトの交響曲「全集」の録音は、それまでのモーツァルト観を見事に覆す一つの「事件」として、後世に語り継がれていくに違いありません。
しかし、ホグウッドがモダン・オーケストラの指揮者などを始めたあたりから、なんだか音楽シーンからは遠ざかっていったような気がするのは、単なる錯覚でしょうか。正直、この団体はもう消滅したものだとばかり思っていましたよ。しかし、2006年に、ホグウッドは指揮者の権限をリチャード・エガーに完全に委譲します。アンドルー・マンゼとともに数々のスリリングな演奏を世に問うてきたこのチェンバロ奏者の元で、この「アカデミー」はかつての栄光の日々を取り戻しているのでしょうか。事実、このレーベルからは多くの録音をリリース、中にはジョン・タヴナー(指揮はポール・グッドウィン)などの「現代」作品も含まれていますから、さらに広い展開を見せているのでしょう。
今回は有名な「ブランデンブルク協奏曲」に挑戦です。この間アバドのDVDを見たばかりだというのに。
アバドの演奏(いや、単に前に出て動いていた、というだけでしたが)からは、いかにも初々しい瑞々しさが存分に感じられたものですが、こちらは言ってみれば「大人の魅力」でしょうか。それも、分別に満ちた「大人」というわけではなく、もはや死語ですが「ちょいワルおやじ」みたいな不良っぽいところが満載の快演です。
そんな弾けた面が全開なのが、「第1番」でしょう。「コルノ・ダ・カッチャ」という指定の楽器のところに、モダンのロータリー・ホルンを使っていては、いかにそれらしく吹こうがとうていナチュラル・ホルンには太刀打ち出来ないことが、この演奏を聴くと良く分かります。なんたって「狩り」ですからね。思い切り粗野に迫っていただきましょう。他の楽器を押しのけての三連符の、豪快なこと。
そんな中で、「5番」はいかにもおやじの底力、ちょっと真面目になればこんなことぐらい軽くできるんだぜ、という、格調の高さで魅了してくれます。なにしろ、ここで演奏されているトラヴェルソの上品なこと。こういう笛を聴くと、やはりこの間のおばさんは、なにかはき違えているような気がしてなりません。エガーのチェンバロ・ソロも、特別に技巧をひけらかすというものではない、もっと堅実なものが感じられます。それと、全ての曲に、通奏低音としてテオルボやギターが加わっているのが、オシャレ。トゥッティの楽器も1パート1人だけというアンサンブルのスタイルで、メンバー同士のインタープレイにも事欠きません。指揮者がいたのでは絶対出来ないような自由なテンポの動かし方は、とてもエキサイティングです。
「6番」のようの地味な曲でも、そんなスタイルだと、まるでジャズのジャムセッションのように聞こえてくるから不思議です。「次、おまえがソロね」みたいな。実際、最後の楽章の延々と繰り返されるリトルネッロは、うっかりしているとどこが最後か分からなくなりそうなところがありますが、それを、まるでエンディングをドラムスのパターンで決めるのと同じような感じで、エガーのチェンバロが見せるちょっとしたきっかけ、これこそが、まさに「大人」の合奏の醍醐味です(大人の音なのね)。

CD Artwork © Harmonia Mundi USA
by jurassic_oyaji | 2009-02-16 19:33 | オーケストラ | Comments(0)