Michel Debost(Fl)
James Galway(Fl)
TOWER RECORDS/QIAG-50039
タワーレコードの企画による過去の名盤の復刻シリーズ、前回の
デュシャーブルの「ピアノ版『幻想』」などに続いて、今回も
EMIのレアな音源です。国内(当時は「東芝音楽工業」でしょうか)で制作された貴重なアイテムに混じって、やはり貴重なこんなアルバムがついにCDになりました。
1974年の7月に録音されたこのデボストとゴールウェイの共演盤は、
1976年には国内でもLPが発売されましたが、あいにくその時に入手し損なったために、長い間
ゴールウェイのディスコグラフィーからは欠落していました。それが、晴れて入手出来るようになったのですから、感慨はひとしおです。
ゴールウェイの
EMIへの録音といえば、
1971年に行ったモーツァルトの「フルートとハープのための協奏曲」がありました。しかし、これはあくまで、カラヤンがベルリン・フィルのメンバーをソリストとして使った企画に参加しただけの話です。他のト長調のフルート協奏曲ではもう一人の首席奏者アンドレアス・ブラウが演奏していますし(これは、オケの中のフルート・パートはゴールウェイが吹いているのですが、ソリストのブラウは完全に負けてしまっています)。そして、このアルバムも、メインとして扱われているのはあくまで当時はすでにソリストとしてのキャリアを確立していたデボスト、ゴールウェイが
RCAから華々しくソリストとしてデビューするのは、もう少し先のことなのです。
全部で6曲からなるテレマンの「作品2」の二重奏は、元のタイトルが「2つのフルート、または2つのヴァイオリンのための6つのソナタ」となっていて、特に楽器を限定していないのは、この当時の作品としては良くあることです。そしてもちろん、「ソナタ」というのは、「教会ソナタ」のこと、緩-急-緩-急の4つの楽章から出来ている形式の曲です。特に早い楽章での対位法的な処理が聴きどころ、2人の名人がそれぞれソロとしてあらわれたかと思うと、次の瞬間には一緒に絡み合う、という変化の妙がたまりません。この中の「3番」は、フルートの基本的な教則本「アルテ」の中でエチュードとして使われていましたので、フルーティストにとっては馴染みの深いものでしょう。もっとも、それは原本ではなく、後に校訂した人が付け加えたもののようで
あるて。
ここでは、ゴールウェイは左のスピーカー、デボストは右のスピーカーから聞こえてくるような定位になっています。そして、全く対等に扱われている2つのパートのうちの「1番フルート」は、1、3、5番ではデボストが、2、4、6番ではゴールウェイが担当しています。そんな予備知識を持ってこのCDを聴いてみると、おそらくこの二人の音色や音楽性がかなり異なっていることに気づくことでしょう。ゴールウェイの芯のある低音、輝かしい高音に比べると、デボストの音色、あるいは音の輪郭はだいぶぼやけたものになっていますし、ゴールウェイの声部の入り口などに感じられるフレーズの攻撃感のようなものは、デボストには殆ど見あたりません。
パリ音楽院の、そして演奏家としての後輩格にあたるゴールウェイの凄さを、ここでデボストは敏感に感じ取ったことでしょう。第1番のソナタの第2楽章でゴールウェイがとっておきのスビト・ピアノを仕掛けたときには、彼は躊躇なくそれに合わせて、歩み寄ろうとさえしています。それにもかかわらず、なにか全体的には、お互いの主張が音楽の流れを損なっているな、と感じられることの方が多くはないでしょうか。野心に満ちた若い演奏家同士のスリリングなまでのバトル、長い間きちんと聴いてみたいと思い続けていたアルバムは、そんな彼らがある時代に醸し出した一つの風景の記録でした。
CD Artwork © EMI Music Japan Inc.