おやぢの部屋2
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WAGNER/Der Fliegende Holländer
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James Morris(Der Holländer)
Deborah Voigt(Senta)
Ben Heppner (Erik)
James Levine/
Metropolitan Opera Orchestra and Chorus
SONY/88697448222



先日の五味康祐の本の中で、オペラの映像についての興味深い記述がありました。例えば、「カルメン」の音楽は素晴らしいのに、それをテレビの画面で見ると、とたんにつまらないものになってしまう、というのです。その根拠となる彼のオペラ映像作品の初体験がカラヤンが作った駄作だったというのは、なんとも不幸なことでした。お陰で彼は、「レコードにあった音楽美が、ビデオ時代には消えてしまう」とまで言い切ってしまうことになるのですからね。そんな、ことさら作為的な映像でなくても、当時NHKで放映されていた「イタリア・オペラ」でも、音楽は美しいのに、それを歌っている人の苦しげな表情を見ると矛盾を感じてしまうと彼は述べています。「容色はいいが才能がないか、声はいいが姿は悪いか、いずれにせよ何か欠けた出演者で、ぼくらは歌劇をみていなければならない。つまり傑作が凡作に変わるのを見つづけなければならない。これは恐ろしいことだ」ですって。
それから30年経って、今では「声もいいし姿もいい」オペラ歌手が数多く出現していることを私たちは知っています。しかし、ビジュアル重視による弊害が勃発していることも、デボラ・ヴォイトの「事件」によって、私たちは知ることになったのです。彼女は、コヴェント・ガーデンの支配人から「デボラ、君はデボラから(デブだから)役を降りてくれないか」と言われてしまったのですね。それで目が覚めたヴォイトは、胃のバイパス手術を受けて、何十キロだかの減量に成功したというのですが、「体が楽器」の歌手がそんなことをして大丈夫だったのでしょうか。
新生SONYが(なんだか、新しい意味不明のロゴマークが付いていましたね)打ち出した新企画は、「Sony Opera House」という、今までの各レーベルのオペラのカタログをミド・プライスで提供する、というものでした。統一デザインがとても良いセンスで、ジャケットだけでも全部揃えたくなるような魅力にあふれています。その中から、まだ生きのいい1994年に録音されて、1997年にリリースされたばかりというレヴァインの「オランダ人」です。ここでゼンタを歌っているのが、「ビフォー」のヴォイト、当時は五味さんがおっしゃるような、姿さえ見えなければとても素晴らしい音楽を味わえたはずの人です。この時期にSONYがまだスタジオ録音のオペラを作っていたなんてちょっとした驚きですが(プロデューサーが、カラヤンのお気に入りだったミシェル・グロッツ)、確かにそういうメリットも「音だけ」のソフトにはあったのですね。
レヴァインにとっては、これが「オランダ人」の最初の録音なのだそうですが、まだ様式的にも音楽的にも晩年のワーグナーとは大きく異なっていたこの作品を、まるで「リング」のような身振りで演奏しているあたりが、彼の見識なのでしょうか。遅めのテンポ、振幅の大きな表現によって、オーケストラからはまさにパノラマのように雄大な情景が広がります。そんな中で、ヴォイトを始めとする重量級の歌手たちも、そんな音楽に沿ったちょっと立派すぎる「オランダ人」を演じているように感じられます。最初の舵取りのモノローグからしてとても立派、「俗物」ダーラントでさえも、まるで神様のような威厳が宿っています。「ゼンタのバラード」などは、まさに息がつまるほどの熱唱、たとえ映像がなくとも、ヴォイトの体躯は眼前に広がります。そこからは、「ちょっと病的なところがある美しい若い娘」というイメージが湧くことは決してありません。
レヴァインのおおらかさがもろに出てしまっているのが、そこでゼンタに絡みつく女声合唱です。男声合唱は荒々しく歌うのがこの作品での役割ですから許せますが、ここでの女声のあまりのアバウトさは、ちょっと耐えられません。

CD Artwork © Sony Music Entertainment
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by jurassic_oyaji | 2009-04-22 19:37 | オペラ | Comments(0)