おやぢの部屋2
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L'Avant-garde du Passè
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Elisabeth Chojnacka(Cem)
TOWER RECORDS/WQCC-177/8



お馴染み、モダン・チェンバロの大家ホイナツカが、今はなきフランスのレーベルERATOに残した2枚のアルバムが最初に国内盤として発売されたのは1990年のこと、その時はレギュラー・プライスの単品として、個別に売られていました。それが、1997年に2枚組で出直った時と同じジャケットとライナーのものが、タワーレコード仕様で発売です。半分近くの値段になって、お買い得。
現代音楽のスペシャリストとしての印象が強いホイナツカですが、この2枚には彼女の楽器が本来演奏されていた時代の作品が収録されています。1枚目は1974年に録音された「昔のポーランドの舞曲と音楽」、2枚目は1981年に録音された「過去の前衛」というタイトルの、主にバロック時代の作品集です。ERATOWARNER傘下になる前のオリジナルの品番(もちろんLP)は、それぞれERA 9247STU 71480、分かる人には分かる懐かしい数列です。
「前衛」あたりは、年代的には、ヒストリカルの楽器を使う可能性もあったのでしょうが、そんな音楽にもあえてモダン・チェンバロでの挑戦を貫いた彼女の心意気には惹かれるものがあります。というのも、これらのアルバムで彼女が選んだ曲目には、単なる「バロック名曲アルバム」にはとどまらない、彼女ならではの強い意志が込められているからなのです。まず「ポーランド」では、彼女の母国の殆ど、というより全く知られていない、作者すらも明らかでないような作品を演奏、ポーランド音楽の知られざる沃野を垣間見せてくれています。そして「前衛」では、文字通り今聴いても斬新さを感じられる挑戦的な作品が集められています。
この録音に使われたのは、1963年に作られたアンソニー・サイディのモデル。このビルダー、最近ではヒストリカルのコピーも作っていますが、当時はもちろんモダン、いかにもモダンならではの多彩な音色が楽しめる楽器です。「前衛」をプロデュースしたヨランタ・スクラが、ERATOを離れて立ち上げたレーベル「OPUS111」で作ったホイナツカのアルバムのブックレットに 同じ楽器(多分)の写真がありますが、確かに足で操作する無数のストップが付いているのが分かりますね。
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オリジナル楽器が隆盛を極めている今のバロック音楽のシーンでは、この時代の音楽をモダン・チェンバロで演奏することはまずなくなっています。それどころか、モダン・チェンバロを演奏すること自体が、何か後ろめたささえ伴うものとなってしまってはいないでしょうか。確かに、実際に17世紀前後の宮廷などでは、こんなケバい音色の楽器が鳴り響くことなどはあり得なかったでしょうが、だからといって頭ごなしに抹殺されてしまうには、ホイナツカが繰り出すその楽器の色彩的な世界は魅力的すぎます。このCDを聴けば、例えば、同じ時代の鍵盤楽器であるオルガンには許された華麗さを、この楽器にだって許してやってもいいのではないか、と思うような禁断の同志が生まれるに違いありません。
そんな、チェンバロと言うよりは、まるで電子キーボードのようなキャラの立った音色満載の彼女の楽器だからこそ、「前衛」のアルバムに込められた、ある意味現代の作曲家よりもはるかに過激な「前衛性」が、ストレートに味わえることになります。例えばヒュー・アストンというイギリスの作曲家の「ホーンパイプ」という曲などは、とてもヒストリカルの範疇には収まりきらないほどのパッションが込められていることが、彼女のまるでフリー・ジャズのような演奏から知ることが出来ます。作者不詳の「ラ・ミ・レに基づいて」という16世紀に作られた曲などは、まるでヒーリングのような甘い音色で奏でられると、殆どエリック・サティの作品と区別が付かなくなります。
モダン・チェンバロは、もしかしたら楽器ではなく、4世紀の時間を行き来することが出来るタイムマシンなのかもしれませんね。借金はかさみますが(それは「債務増し」)。

CD Artwork © Warner Music Japan Inc.
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by jurassic_oyaji | 2009-05-10 23:50 | ピアノ | Comments(0)