おやぢの部屋2
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TAVENER/Requiem
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Elin Manahan Thomas(Sop)
Andrew Kennedy(Ten)
Joephine Knight(Vc)
Vasily Petrenko/
Royal Liverpool Philharmonic Choir & Orchestra
EMI/2 35134 2



ヒーリング業界では圧倒的な人気を誇っているジョン・タヴナーの最新作「レクイエム」が、2008年2月28日にリヴァプールで初演されました。これはその時のライブ録音です。演奏された場所は、リヴァプールのメトロポリタン・カテドラルという「大聖堂」、ブックレットの裏表紙にその時の写真がありますが、それは大きな丸天井を持つ巨大な空間です。真ん中に祭壇があって、それを囲むように2300人分の椅子が配置されています。
この「レクイエム」は、ソプラノとテノールのソリスト、それにチェロ独奏とオーケストラという編成で作られています。ただ、オーケストラは弦楽器と金管楽器と打楽器だけで、木管楽器は入っていません。さらに、そのメンバーの配置が非常にユニークであることが、その写真からも分かります。まず、チェロ独奏がど真ん中に控えていて、そのまわりを十字架状に他のメンバーが囲みます。チェロの正面には弦楽器、指揮者はその前にいます。指揮者の後ろにはソプラノとテノールのソリスト、チェロの後ろには金管楽器と合唱団、そしてチェロの左右のバルコニーには打楽器がいます。つまり、お客さんはそれらの演奏者に間に座ることになり、まさに「サラウンド」の体験を味わうことになるのですね。
そのような音場は、どのような形で録音されていたのかは分かりませんが、これはごく普通の2チャンネルのステレオですから、CDの音は全て真っ正面からの平面的なものにしか聞こえません。本当は後ろから聞こえてくるはずのソリストは真ん中に定位していますし、独奏チェロと打楽器もかなりの距離があるはずのものが、ごく近くにあるようにしか聞こえません。ただ、そんな距離感は、演奏上の「事故」という別の形でリスナーには伝わることになります。それは、全部で7つの楽章から成るこの曲の中心に位置し、音楽的にも最大の昂揚感が味わえる4つ目の楽章でのことです。普通のカトリックの「レクイエム」では「Dies irae」以降に相当するドラマティックなこの楽章では、全てのパートがフォルテシモで叫びまくるのですが、金管、弦楽器、そして合唱が、そこで見事にズレてしまっているのですよ。お互いの距離が離れすぎているのと、この会場のとてつもない残響で、とても他のパートを聴いて合わせることなどは出来なかったのでしょうね。いや、あるいはこんな「ズレ」すらも、タヴナーによって計算され尽くされたものだったのかもしれませんが。あの長い髪のように(それは「ズラ」)。
実際、タヴナーは綿密なプランを練っていました。彼の言葉によると、その楽章を中心に、全体の音楽がシンメトリカルに作られているのだそうです。確かに、演奏時間などを見るとそれはその通りのものでした。曲全体も、最初にチェロのソロで始まったものが、最後もやはりチェロのソロで終わるというものです。さらに、テキストの面でも、これは単なるカトリックの宗教音楽を超えた、全世界の宗教を包括した内容を持つという壮大な設計に基づいているのだそうです。最後の楽章では、ソリストと合唱の4つのパートのそれぞれが、全く異なる宗教に由来するテキストを同時に歌う、というシーンが登場します。同じパターンが執拗に繰り返されるうちに達成される息の長いクレッシェンドとディクレッシェンド、そのプランのあまりの周到さの中には、ちょっとした押しつけがましさも感じてしまうほどです。
「レクイエム」の演奏時間は35分と短め。余白には2004年に作られたソロ・ヴァイオリンと銅鑼と弦楽合奏のための「マハーシャクティ」という、まさに「ヒーリング」の王道を行く曲と、1991年の「エターナル・メモリー」という、チャイコフスキーの「1812年」に出てくるロシア正教のコラールそっくりのテーマによるチェロと弦楽合奏のための曲が収められています。

CD Artwork © EMI Records Ltd.
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by jurassic_oyaji | 2009-05-16 19:45 | 合唱 | Comments(0)