おやぢの部屋2
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TAN DUN/The First Emperor
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Plácido Domingo(Emperor Qin)
Elizabeth Futral(Yueyang)
Paul Groves(Gao Jianli)
Wu Hsing-Kuo(Yin-Yang Master)
Mischelle DeYoung(Shaman)
Zhang Yimou(Dir)
Tan Dun/
Chorus & Orchestra of the Metropolitan Opera
EMI/TOBW-3607/8(DVD)



2006年にニューヨークのメトロポリタン歌劇場(MET)の総支配人に就任したピーター・ゲルブが手がけた「ライヴビューイング」は、今では日本でもすっかりなじみ深いものになったようですね。その記念すべき最初のシーズンで上演されたタン・ドゥンの新作オペラ「始皇帝」が、「ライヴ」そのままの形でDVDとなりました。世界初演が行われたのは20061221日のことですが、ここに収録されているのは翌年の1月25日まで9回上演された中の7回目の公演、1月13日のマチネーの模様です。ちなみにこのプロダクションはさらに次のシーズンのレパートリーにも入り、2008年5月10日から17日まで3回上演されることになりました。
秦の始皇帝を主人公にしたお話、ということで、どんなに埃っぽく壮大な物語が繰り広げられるのか、ちょっとたじろいでしまいますが、ご安心下さい。タン・ドゥン自身も作成に参加している台本の骨子は、中国統一を果たした英雄の業績、といったような華々しいものではなく、基本的にはもっとオペラに馴染みやすいラブ・ストーリーなのですからね。
そのラブ・ストーリーの伏線として、おそらく秦の時代に演奏されていたであろう音楽が復元される、というシーンが、オープニングを飾ります。そこで大活躍を見せるのが、このオペラハウスの合唱団です。まるで宝塚のような大階段に並んだ黒ずくめの群衆は、一糸乱れぬ「振り」とともに、不規則なリズムの叫び声でそんな太古の音楽を奏でます。そして、それを支えるのが、やはり合唱団によって演奏される手に持った石で太鼓を叩いたり、その石を擦り合わせるという、これも一糸乱れぬ(いや、中には間違えている人もいたような)アンサンブルです。そこに、これは中国のミュージシャンでしょうか、たくさんの陶器を並べた打楽器が加わり、なんともインパクトの強い音楽が壮大に繰り広げられるのです。
しかし、そこに登場したドミンゴの始皇帝(彼が出てきただけで拍手が沸き起こります)は、「こんな音楽ではなく、もっと素晴らしい『賛歌』を作らなければ」と、まるで「第9」のような宣言を行います。その「賛歌」を作るべく用意されるのが、始皇帝の「影」とも言うべき人物カオ・ジャンリ。幼い頃は一緒に育ったものの、今は奴隷の身分の作曲家です。そして、彼と始皇帝の娘のユエヤンが愛し合ってしまうということで、話はロマンティックな方向へ向かいます。この2人が実際に愛し合う「濡れ場」は、「サロメ」そこのけのエロティックな雰囲気が漂う、まさに「サービス・カット」でした。結局その「賛歌」は完成するのですが、それがどんなものであったのかというのは見てのお楽しみ。
タン・ドゥンの音楽は、まさに折衷的、狂言回しとして登場する陰陽師は、京劇のアーティスト、京劇そのもののスタイル、もちろん中国語で彼だけの世界を演じています。本体は英語で歌われますが、その中にもメロディの節々に京劇的な引用が用いられます。アリアの旋律は中国風の五音階を用いたいかにも、というテイスト、そしてクライマックスは、まるでメシアンのような色彩的なハーモニーとリズムによって支配されています。作曲者自身の指揮からは、そんなごちゃ混ぜ様式を一つのエンタテインメントに昇華させようという強い意志が感じられます。間奏曲、でしょうか、オーケストラのメンバーまでが中国風の発声の合いの手を入れる中で華やかに打楽器が演奏されるシーンは、まさに東洋と西洋の幸せな融合のように聞こえてきて、感動すら呼ぶものです。
演出は、メータ指揮の「トゥーランドット」を手がけた映画監督のチャン・イーモウ。これを見ていたら、プッチーニが作り残したそのオペラの最後の部分をタン・ドゥンが作ったものを聴いてみたくはならないでしょうか。

DVD Artwork © EMI Music Japan Inc.
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by jurassic_oyaji | 2009-05-20 20:07 | オペラ | Comments(0)