おやぢの部屋2
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WAGNER/Lohengrin
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J. Botha(Lohengrin), A. Pieczonka(Elsa)
F. Struckmann(Telramund), P. Lang(Ortrudd)
Semyon Bychkov/
WDR Radio Choir Cologne etc.
WDR Symphony Orchestra
PROFIL/PH09004(hybrid SACD)



もしかしたら、もはや死に絶えたと思われていたスタジオでのオペラの録音に、最近復活の兆しがあるのかもしれません。それも、それらが隆盛を極めた以前の姿よりさらにクオリティの高いものとなって。
そんな幸福感に浸れたのは、この、演奏から録音まで、隅々に手間のかかった仕事のあとが感じられるSACDを聴いたお陰です。セミョン・ビシュコフが、彼のオーケストラを使い、彼のホームグラウンドであるケルンのフィルハーモニーで行った録音セッションは、それだけでも2週間という「長期」にわたっていましたが、実はそのはるか以前から周到な準備がなされていたものでした。プロダクション自体は数年前からスペインでのコンサートとウィーンでの上演で作り上げられていたものだということですし、その集大成というべきケルンでの2回のコンサートの直後に組まれたのが、このセッションだったのです。
それだけの時間をかけて練り上げられてきたビシュコフたちのローエングリンのベーシックなコンセプトは、おそらく薄暗いピットの中に埋もれていたオーケストラを、燦々と光の降り注ぐ場所へ引きずりだすことだったのではないでしょうか。3時間以上かかるオペラの全曲盤、それをなにもしないで集中して聴き通す自信などなかったので、仕事の片手間に聴き流そうと思ってSACDプレーヤーに放り込んだのですが、まず聞こえてきた前奏曲のあまりの繊細さと雄弁さにはまさに体中が凍り付く思いでした。とてもこれはなにか他のことをやりながら聴くようなものではない、と、改めてスピーカーと対峙、全神経を集中して聴き始めることになるのです。
そのオーケストラは、まさに「絹のような響き」、前奏曲の透明さは、ほとんど宗教的ですらあります。それは明らかに、この作品が、オペラというにはあまりにも「神聖」過ぎる後の作品、「パルジファル」の後日談であることを意識したビシュコフの視点のなせる業だったに違いありません。普通のオペラの上演では、ステージ上のバンダによってかなりいい加減に演奏される裁判開始のファンファーレまでが、なんと上品で音楽的に歌われていることでしょう。
そのシーンの最後に剣で盾を打ち鳴らすときに聞こえてきたショッキングな音、それは、映像などがなくても、眼前にそのシーンがまざまざと映し出されるものでした。ここから、一つの「予感」が脳裏をよぎります。もしかしたら・・・。
聴きすすむうちに、その予感は現実のものとなりました。第2幕第2場でのエルザとオルトルートの位置関係(エルザの声は高いところから聞こえてきます)、第3幕第1場、いわゆる「結婚行進曲」での遠近感、さらには第3場への場面転換の音楽のやはり遠くのラッパがしだいに近づいてくる音場設定など、これはまさにあのジョン・カルショーが試みた「ソニック・ステージ」そのものではありませんか。もちろん、その半世紀前のテクノロジーは、当時とは微妙に異なる意味合いを持っているはずです。オペラハウスの映像がいともたやすく手に入るようになってしまった現代では、どうしてもその奇抜な演出にばかり目が行きがち、真摯に音楽に耳を傾けつつ、自分なりのシーンをその中に描ける助けになれば。現代に蘇った「ソニック・ステージ」は、そんなものを目指しているのかもしれません。
1998年のバレンボイム盤と同様、ここでは慣例的なカットをすべて排した「完全版」を聴くことが出来ます。第3幕第3場の有名な「聖杯物語」も、本来の形で味わえますよ。しかし、それを歌っているボータからは、なぜか以前にはあった強靱な響きがすっかり消えています。この声で聴く「2番」のつまらないこと。せっかくの「完全版」の成果が、なぜ作曲家自身がカットしたかが納得できたことのみでしかなかっとのは、とても残念なことです。

SACD Artwork © Profil Medien GmbH
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by jurassic_oyaji | 2009-05-30 20:12 | オペラ | Comments(2)
Commented at 2009-05-31 04:03 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by jurassic_oyaji at 2009-05-31 09:18
【篠の風】さん、コメントありがとうございました。
ミュンヘンの現場でお歌いになっていらっしゃるのですね。

ナガノ氏は2006年のバーデン・バーデンでは3幕は普通のカット版で演奏していましたね。その時は、ローエングリンがフォークトだったので、かなり違和感がありました。
今回のミュンヘンはカウフマンですね。フォークトとは全くスタイルの違うローエングリンなのでしょうね。私は、こちらの方が馴染めそう。