おやぢの部屋2
jurassic.exblog.jp
ブログトップ
MOZART/Arias & Overtures
c0039487_20574143.jpg


Helena Juntunen(Sop)
Dmitri Slobodeniouk/
Oulu Symphony Orchestra<
ALBA/ABCD 267(hybrid SACD)



いかにも北欧系、抜けるように白い肌ときらめくばかりのブロンドの髪を持つ女性の写真に惹かれて、つい手を出してしまったアルバムです。モーツァルトの序曲とアリア集ですが、こんな美しい人が歌うのですから、きっと素晴らしいアルバムに違いない、と。
オーケストラは、フィンランドの中部、ボスニア湾に面した都市オウルにある、70年以上の歴史を誇るオウル管弦楽団です。指揮者のドミトリー・スロボデニウク(ロシア系ですが、小さい頃からフィンランドで育った方)ともども、名前も、そして演奏も実際に聴くのはこれが初めてのことになります。
まず、そのオーケストラによる「序曲集」では、あまりにマイナーな曲が多いことに軽い驚きが走ります。なにしろ、「有名」な曲は「魔笛」しかないのですからね。オペラ自体は有名でも、「ブッファ」の序曲の中ではダントツで演奏頻度の低い「コジ」に続いて、「イドメネオ」、「ルーチョ・シッラ」、「ティト」という「セリア」の序曲が並ぶのですから、その渋さは際立っています。しかし、「ルーチョ・シッラ」あたりは、多楽章形式のまさに「シンフォニア」といっても良い堂々たるフォルムに、新鮮な感動が味わえることでしょう。
と同時に、「イドメネオ」を聴いている時にふと感じたのは、モダン楽器による弦楽器のアンサンブルの爽やかさでした。途中で出てくる上昇スケールの音型が、とても心に響いたのです。SACD、しかも、録音は「2L」でお馴染みの「DXD(Digital Extreme Definition)」という、「DSD」の4倍のデータ量を誇る高解像度のフォーマットから聞こえてきたそのみずみずしさは、まさに「心を洗われる」ようなものでした。
ティンパニや金管はおそらくオリジナルに近い楽器を使っているような気がしますが、この弦楽器はなんとも華麗なモダンそのものの響きです。最近はモーツァルトでも殆どオリジナル指向の演奏しか聴くことがなくなっていたところに、これはまさに忘れかけていた感覚を呼びさまされるものでした。ていねいに磨き上げられたモダン弦楽器の極上の響きは、たとえ「オーセンティック」という面からは外れていても、いい加減なオリジナル楽器による演奏よりはるかに質の高いものを伝えてくれることもあるのでしょうね。それは言うまでもなく、往年の「巨匠」たちによる仰々しいスタイルとは次元の違う、垢が落ちて一皮剥けたものになっているはずです(「温泉ティック」ね)。
しかし、声楽のフィールドでは、そのような体験は殆ど味わうことはできません。バロック期の歌い方を身につけた歌手の台頭によって、モーツァルトの時代の作品までもが過剰なエモーションを交えて歌われることはなんとも場違いであることに、人々は気が付いてしまったのです。特にソプラノのロールでの、ベル・カント丸出しの歌い方などは、もはやモーツァルトでは殆ど通用しなくなっているのではないでしょうか。
そんな流れの中で、この美しいヘレナ・ユントゥネンは、ギリギリ従来の様式でも受け入れられるほどの軽やかさを持ち合わせていました。それは、先ほどのようなオーケストラの中だからこそ、さほどの違和感がなかったのかもしれません。
彼女が歌うナンバーも、なぜか序曲が演奏されていない「フィガロ」の中のロジーナのレシタティーヴォとアリアを除けば、「コジ」のフィオルディリージや「イドメネオ」のイリアのアリアといった、マイナーなものばかりです。そんな中で、プラハのドゥシェック夫人のために作ったレシタティーヴォとアリア「私のうるわしい恋人よ、さようなら」「とどまって下さい、ああいとしい人よ」での不思議な半音進行で、新たなモーツァルトの魅力に気づくことがあるのではないでしょうか。

SACD Artwork © Alba Records Oy
[PR]
by jurassic_oyaji | 2009-06-13 20:58 | オペラ | Comments(0)