おやぢの部屋2
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MALEC/Epistola, Arc-en-cello
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Ilia Laporev(Vc)
Vocal Soloists(SATB)
Emanuel Krivine/
Choer Philharmonique Tchèque, Brno
Orchestre Philharmonique du Luxembourg
TIMPANI/1C1153



フランスで活躍している(いた)珍しい作曲家をどんどん紹介してくれるTIMPANIレーベル、またまたツボにハマる人の登場です。それは、1925年生まれといいますから、もうすぐ85歳になろうというクロアチア生まれの作曲家、イヴォ・マレクです。このアルバムには、2003年に作られた、「アル・カン・チェロ」というタイトルのチェロとオーケストラのための協奏曲と、ラテン語で「手紙」という意味を持つ2006年に出来たばかりの「エピストラ」というタイトルの、大規模な「カンタータ」の2曲が入っています。大きな曲ですから、オーケストラには正規の団員以外のメンバーも入っているのでしょう(それは「エキストラ」)。もちろん、2曲ともこれが世界初録音になります。
Arc-en-cello」というフランス語のタイトルが、「Arc-en-ciel(虹)」をもじったものであることには、なんか「同類」のような親近感をおぼえてしまいます。ただ、文字通り「チェロによって演奏された虹のような曲」みたいな先入観で聴き始めると、その骨太のサウンドにはちょっとひるんでしまうかもしれません。そう、このマレクという作曲家の作風は、そんな甘ったるいものではなく、もっと硬質で挑戦的な、ちょうどあのクセナキスのような外観を持つものでした。独奏チェロのグリッサンドや、バックで派手にかき鳴らされる打楽器群を聞くだけで、そんな「音の雲」を自在に駆使した懐かしいサウンドが呼び起こされます。一瞬たりとも予想された「解決」には向かうことのないその荒々しい音楽は、すっかり軟弱になってしまった「現代音楽」の中で、ちょっと忘れられがちな根元的なものを思い起こさせてくれるものでした。
ただ、マレクがクセナキスと異なるのは、そのような手法を使いつつ、極めて「平静」な情景をも同時に描き出す技を備えている、という点です。聴くものを昂揚させるだけでなく、それを鎮めて安らかな境地までも表現できる彼の手法、これは、深く心に突き刺さってくるものです。
もう一つの作品「手紙」(アンジェラ・アキではありません)では、オーケストラに声楽が加わって、さらに振幅の大きい世界が繰り広げられています。テキストとして用いられているのは、16世紀のクロアチアの詩人マルコ・マルリッチが時のローマ法王ハドリアヌス6世にあてて出したラテン語の手紙。トルコの侵略に抵抗するための力を貸して欲しいと懇願するその内容が、同じ国が20世紀後半に遭遇した体験に重ね合わされて、作曲家の創造意欲をかき立てたのでしょう。
もちろん、彼の作風では、そこには美しい「アリア」などが出現することはあり得ません。ほとんどカオスの中からしか聞こえてこないテキストの断片、しかし、それは圧倒的な力を持って迫ってきます。こういう時の合唱の特別の表現、「歌う」のではなく、「語る」、あるいは「囁く」といったものが、とても大きな力を発揮することが、ここで改めて思い知らされます。そして、中間部で聞こえてくるのは、チェロ独奏だけをバックに歌われるアルトのシンプルなソロです。これこそが、この作曲家の「平静」モード。マリアンナ・リポブシェクの深い声は、それまでのハイテンションのカタストロフィーの後だからこそ、際立って聞こえます。
これは、2006年の世界初演の時のライブ録音、「Arc-」も2008年のやはりライブ録音ですが、その録音がとびきり素晴らしいのは感動的です。なによりも、クラシックにはあるまじきすさまじい音圧。そして、炸裂するたくさんの打楽器や、叫びまくる合唱の粒立ちといったら、どうでしょう。さらに、独奏チェロの生々しさ、演奏者の気迫までもがしっかりととらえられている録音だからこそ、作品の素晴らしさがストレートに伝わってきたに違いありません。

CD Artwork © Timpani
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by jurassic_oyaji | 2009-06-23 23:41 | 現代音楽 | Comments(0)