おやぢの部屋2
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MOZART/Overtures
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Rinaldo Alessandrini/
Norwegian National Opera Orchestra
NAÏVE/OP 30479



一見なんの変哲もないロッカーの写真、でも、このロッカーの数を数えてみると、全部で22個。確か、2006年のモーツァルト・イヤーにちなんだザルツブルク音楽祭のオペラ全曲演奏のプロジェクト名が「M22」でしたから、これは彼が作ったオペラの数?でも、このアルバムには、「オペラ」ではなく「バレエ」の序曲が1曲含まれていますから、それは変?いえいえ、「M22」の方には、普通は「オペラ」としては扱われない「第一戒律の責務」も入っていたので、差し引きちょうど22曲にはなりませんか?つまり、このロッカーの扉を開くと、その中から宝物のようなモーツァルトの序曲があらわれる、といったコンセプトが込められたジャケットなのでは。
ただ、もちろんCD1枚に22曲も入るわけはありませんから、ここでは12の作品の序曲と行進曲や舞曲など、というラインナップです。それにしても、「イドメネオ」とか「ポントの王ミトリダーテ」などという、普段なかなか聴くことのない曲が入っているのは嬉しいものです。さらにマイナーなバレエ曲「レ・プティ・リアン」の序曲まで聴けるんですからね。夫婦喧嘩の話でしたっけ(それは「プティ・リコン」)。そんな選曲でも分かるように、おそらくこれが最初のモーツァルト・アルバムとなるアレッサンドリーニは、まさに「名刺代わり」といった趣で、彼のモーツァルト像を強烈に見せつけてくれています。
そう、かつてはモンテヴェルディあたりを中心にしたレパートリーで興味深い演奏を聴かせてくれていた本来は鍵盤奏者だったアレッサンドリーニは、最近はシンフォニー・オーケストラからも共演の機会が与えられるほどのオール・ラウンドの指揮者として活躍しています。2005年からは、ノルウェー国立歌劇場の首席客演指揮者というポストまで獲得し、そこでは、モーツァルトのプロダクションなどにも参加、そこで、このオーケストラの反応の良さに惚れ込んだアレッサンドリーニは、こんなアルバムを作ることにしたのだそうです。
このオーケストラは、当然モダン楽器の団体です。しかし、彼はそんなことはあまり気にはしていないようですね。ライナーにインタビューが載っていますが、「レガートしか弾けないモダン楽器には、限界があるのではないですか?」というつまらない質問に対して「いや、モダン楽器に限界はありません。限界があるとすれば、それは演奏家です」と言いきっているのですから。
そんな風に、指揮者が演奏家に対して全幅の信頼を置いていると同時に、オケのメンバーもとことん指揮者の要求を受け入れようとしていることが、この演奏を聴くと手に取るようによく分かります。この指揮者が目指しているのは、モーツァルトが書いた全ての音符、全てのフレーズ、そして全てのハーモニーに意味を持たせることでした。それを実現させるための表情付けは、なんと細かいところまでに及んでいることでしょう。その結果、ここからは音楽のどの瞬間にも何らかのメッセージが伝わってくる、という恐るべきものが出来上がりました。そんなもの、鬱陶しいんじゃないの?と思うかもしれませんね。確かに、アーノンクールあたりはそれで墓穴を掘りましたが、そんなことがまるで感じられないのがアレッサンドリーニのすごいところなんですよ。
「ドン・ジョヴァンニ」の冒頭のアコードなどは、いともさりげない、それでいてさまざまな表情が含まれたもの、そこからは、よくあるような威圧的でおどろおどろしい演奏ではなくても、このオペラ全体の悲劇性を伝えることは出来るのだな、という驚きが生まれます。「後宮」の真ん中のゆっくりした部分のなんという安らぎ感。そして、心を打たれるのは、「劇場支配人」での、なんてことのないクレッシェンドから生まれる限りなく豊かな音楽です。
この人の作るモーツァルトのオペラはどれほどの喜びを与えてくれるのか、今からとても楽しみです。

CD Artwork © NAÏVE
by jurassic_oyaji | 2009-07-14 23:08 | オーケストラ | Comments(0)