おやぢの部屋2
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The Ring Goes Swing
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Ben Lierhouse(Producer)
Jörg Achim Keller/
hr-Bigband
GATEWAY 4M/3105-2



だいぶ前にParsifal Goes la Habanaというワーグナーとラテン・ジャズを融合させたアルバムを発表したベン・リーハウスのプロジェクトの最新アルバムです。あれから「ハーレム版」とか「フラメンコ版」などを制作、幅広い可能性を模索してきた彼らは、ここでは重厚に「スウィング」で迫ります。「Ring」と「Swing」で韻を踏んでいるところなど、まさにおやぢ好み。
演奏している「hr-Bigband」というのは、「hr(Hessischer Rundfunk)」、つまりフランクフルトにあるヘッセン放送協会所属のジャズ・バンドです。有名なフランクフルト放送交響楽団(正式名称は「hr-Sinfonieorchester」)も、この放送局の所属のクラシックのオーケストラ、こんな風にクラシックの団体と同じレベルでジャズのバンドも持っているのが、ドイツの放送局なのです。日本では考えられませんね。「NHKバンド」とか「読売日本スウィング・オールスターズ」なんてね。
ワーグナーの作品のモチーフを使って、ジャズの曲を作り上げるという手法は別に珍しいものではないのですが、ここでのアレンジを聴くと、単にメロディやフレーズを持ってきた、という以上の、もっと根本的な次元でのワーグナーに対するリスペクトが感じられます。そもそもタイトルからして、ワーグナーのオリジナルのものがそのまま使われていますし。1曲目のジークフリートのあのホルンのモチーフをジャズ・ワルツ風に仕上げた曲などは、そのまんま「Siegfrieds Rheinfahrt」ですからね。もっとすごいのは、「神々の黄昏」のモチーフを多用した2曲目。これには「Zurück vom Ring」というタイトルが付けられていますが、これはご存じの通り、この畢生の大曲の最後の最後にハーゲンによって発せられるセリフなのですからね。
そんな「リング」を「フィーチャー」した曲を聴いていると、これはジャズのイディオムを用いてはいるものの、音楽自体はまさにワーグナーそのものなのではないか、という感慨に行き当たります。確かに、そこからはワルキューレたちの軽やかな動き(3曲目「Die Walkürenritt」や、ラインの乙女たちの歌声(6曲目「Rheingold, Rheingold」)、さらにはミーメの卑屈さ(10曲目「Sieh, Du bist müde von harter Müh」)までもが、元のオペラさながらに眼前に広がってきます。
そこで思い当たるのが、最近の趨勢である演出に於ける「読みかえ」です。ストレッチャーを押しながら走り回るワルキューレといったワーグナーのト書きを完璧に無視したところから始まる「読みかえ」、それを、音楽的に「クラシック」から「ジャズ」に「読みかえ」たものが、これらのナンバーなのではないでしょうか。いくらハチャメチャな演出に変わったとしてもワーグナーのコンセプトは伝わるのと同様、「ジャズ」になっても彼の音楽は揺るぎもしないというのが、すごいところです。
と言うより、こんな共感に満ちた演奏を聴いていると、プロデューサーやアレンジャーのレベルではなく、プレーヤー個人にいたるまで、ワーグナーの作品を日常的に感じる機会がある、と言うのがドイツという国なのではないか、という思いに駆られてしまいます。
ここでは、「リング」以外の作品もとリングられて(取り上げられて)います。それらは、もうちょっと肩の力が抜けた仕上がりになっているでしょうか。ローエングリンの「結婚行進曲」である7曲目「Treulich gefürt」には、なんとあのミュージカルの名作「My Fair Lady」からの、これから結婚式に向かうヒロインの父親が歌う軽妙なナンバー「Get me to the church on time」が粋に挿入されていますし、「オランダ人」の水夫の合唱(9曲目「Steuermann, lass die Wacht」)はパーカッションがたくさん入ってラテン仕立て。この曲の間奏がこれほどラテンのセンス満載だったとは、新鮮な発見でしたよ。
最後、ローエングリンの「In fernen Land」などは軽やかなボサ・ノヴァ。この曲だけにはストリングスも加わり、主人公のゴージャスな品格を醸し出すという演出です。

CD Artwork © more fine music & media GmbH
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by jurassic_oyaji | 2009-07-23 19:20 | ポップス | Comments(0)