おやぢの部屋2
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BARTÓK/Bluebeard's Castle
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Elena Zhidkova(MS)
Willard White(Bas)
Valery Gergiev/
London Symphony Orchestra
LSO LIVE/LSO0685(hybrid SACD)



バルトークの「青ひげ公の城」の最新録音、このオペラを演奏するのにこれ以上の人はいないだろうという期待が込められる、ゲルギエフの指揮です。さらに、ソリスト陣がちょっとユニーク、青ひげにはなんとウィラード・ホワイトがキャスティングされていますよ。この人の場合、どうしてもガーシュウィンの「ポーギーとベス」のタイトル・ロールである、いざり(死語?)の老人しか思い浮かばないほど、この役とのつながりが強く感じられるものですから、こんな高貴な城主にはちょっと違和感がありました。ベス、ではなく、ユーディットを歌っているジドコワは初体験ですが、写真を見ると、いにしえのユーロビートの女王、カイリー・ミノーグそっくりのルックスです。この人の場合、外見的にはまさにユーディットそのもの、青ひげが是非ともコレクションに加えたいと思えるような美貌と、見境もなく自らの好奇心を相手に強要するという、愚かさを兼ね備えています。
最初に、普通はこれだけのためのナレーターによって朗読される「前口上」が、ホワイトによって語られているのもユニーク、しかも、それはハンガリー語ではなく、ロンドンの聴衆を意識した英語に翻訳されたテキストです。実は、この翻訳を行ったのはバルトークの息子のピーター・バルトークです。ひところ、レコーディング・エンジニアとして活躍していましたが、今は何をなさっているのでしょうか。まさかDJではないですよね(それは「ピーター・バラカン」)。おそらくこの部分が英語によって録音されたものは、これが最初なのではないでしょうか。「Ladies and gentlemen」というフレーズが何度も出てきて、ハンガリー語では分からない微妙なニュアンスが伝わってきます。ただ、これを青ひげを演じるのと同じ人が語る、というのは、やはりちょっとおかしい気がします。
このレーベルのブックレットには、いつも、その演奏が行われたときのメンバーのリストが添付されています(編成を見れば、バンダの金管やオルガンが入っているので、それが分かります)。それによると、ロンドン交響楽団の弦楽器は16型というフルサイズ、その割には、ストリングスが大きく聞こえてくることはなく、木管楽器がアップで迫ってくるという音場になっています。イギリスのオーケストラらしい、軽くビブラートのかかったクラリネットが、ちょっと怪しげなテイストを加えているのも、こういう録音だと良く分かります。
ゲルギエフの作り出す音楽は、いとも病的で、かつてブーレーズなどがとっていた「ファッショナブルな現代音楽」というスタンスとは対照的なもの、しかし、粘りのあるフレージングとくすんだ音色は、病んでいる時代を反映した、別の意味で「現代的」なものと言えるのかもしれません。したがって、「5つ目の扉」の場面でのオーケストラからは、スペクタクルな快感などは得られるわけもありません。おそらく意識してのことでしょう、歯切れの悪いアインザッツから生まれるなんとも言えない屈折した思いは、まさに疲弊しきった現代社会そのもののように感じられます。
ロシア人であるジドコワであっても、やはりハンガリー語は他国語なのでしょう。「言葉」よりはそのドラマティックな歌によって、そんなゲルギエフを支えているように見えます。あるいは、それは指揮者の思惑とは別の方向を向いてしまったものなのかもしれませんが、彼女の特に低音のちょっとした頼りなさが、はからずも退廃的な色づけに貢献しているように思えてなりません。
ホワイトも、いかにもオペラティックな子音の強調によって、明るさとは無縁の重苦しさを演じています。しかしそれも、ゲルギエフが目指しているものとは少しばかりの距離を置いたもののように感じられます。

SACD Artwork © London Symphony Orchestra
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by jurassic_oyaji | 2009-07-27 19:54 | オペラ | Comments(0)