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世界の10大オーケストラ
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中川右介著
幻冬舎刊(幻冬舎新書
134
ISBN978-4-344-98134-8


新書版で1300円(+税)もしたので、最近の出版界はこれほどまでに強気の価格設定がまかり通っているのか、と驚いたのですが、現物を見たら511ページ、まるで辞書のような分厚く重たい装丁だったので納得です。確かに世界を代表する10のオーケストラのそれぞれの歴史をつぶさに綴ったものが集められているのですから、これだけ膨大なページ数になるのも当然のことでしょう。
その「10」のオーケストラを選ぶにあたっては、おそらく今の時代何を基準にするかについて悩むことが多いはずです。以前ご紹介した書籍でも、なんとも納得のいかないトップ10でしたし、そもそもこの時代にすべての人を満足させる選定基準などあるわけがありません。その件に関しては著者も大いに悩んだようで、巻頭に6ページを割いて「言い訳」を寄せています。「なぜフィルハーモニア?」とか「なんでパリ管が?」と言いたいのはやまやまでしょうが、ここは一つ著者の顔を立てて、この「10大オーケストラ」に従っていこうではありませんか。そう割り切ってしまいさえすれば、こんなランキングはさほど重大ではないことにも気づくことでしょう。
そう、これは、その10のオーケストラの個々の歴史を描いたものですが、当然のことながら、その当時の世界情勢や、そのオーケストラに関わった「人物」の歴史を描いたものにもなっています。そんな人物たちが、あるときは世界の動向に翻弄され、あるときは競争相手との駆け引きに一喜一憂する、そんな極めて人間的な「物語」を見ていると、それぞれのオーケストラなどは単なる舞台背景にしか見えてはこないでしょうか。その「背景」は、ある時は由緒ある宮廷楽団、ある時はレコーディングのための寄せ集め、著者がこだわった「トップ10」とは、図らずもそんなバラエティに富んだ「舞台」を提供してくれるさまざまな出自を持った団体となっていました。
そんな主人公である人物たち(主に指揮者になります)は、著者の手によってまるで見てきたように生き生きと描かれています。由緒あるオーケストラのポストを常に望んでいながら、ついにそれをかなえることの出来なかったブルーノ・ワルターなどは、まるでその悔しさが読んでいるものにも伝わってくるほどのリアリティを備えていますし、さもシンデレラ・ボーイのように伝えられているレナード・バーンスタインにしても、そのポストへの道のりは決して平坦ではなかったことが、さまざまなオーケストラと錯綜する時間軸の中で等身大に感じられるようになっているのです。もちろん、著者の最大の関心はヘルベルト・フォン・カラヤンであることは間違いありません。彼と関わりのあった人物が出てくるたびに、「その時、カラヤンは生まれたばかりだった」みたいな記述が出てくるのには辟易しますが、確かに彼を「物差し」に使うというのは、相対的な位置関係を知るには有効な方法なのかもしれません。
オーケストラの歴史の中にさまざまな影を落としてきたのは、2つの大戦、冷戦時代、そしてビロード革命などのヨーロッパを襲った大きな動き(あるいは、中東の情勢)です。音楽の世界にそのような動きが無関係だったはずなどあり得ない、という当然のことにも、その度にオーケストラが被った変化を、やはり見てきたように語る著者の筆致によってまざまざと実感することが出来ます。
そのような著者の描写を助けたであろう文献の一覧が巻末にありますが、その数はハンパではありません。正確な情報を求めるための著者の努力の一端を垣間見た思いです。ただ、EMIの成り立ちについては文献は提示されておらず、おそらくこちらのネット情報の丸写しのようでした。ということは、そのモトネタはこちらなのですから、当サイトがこの労作の一端を担うという栄誉に浴することが出来たことになりますね。

Book Artwork © Gentousha
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by jurassic_oyaji | 2009-08-22 23:01 | 書籍 | Comments(0)