おやぢの部屋2
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SCHUBERT/Die Schöne Müllerin
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Jonas Kaufmann(Ten)
Helmut Deutsch(Pf)
DECCA/478 1528



DECCAからは3枚目となる、カウフマンのアルバムです。以前の2枚はオペラアリア集でしたが、今回はシューベルトのリートです。そういえば、実質的なデビュー・アルバムとしてHARMONIA MUNDIからリリースされたものもR.シュトラウスのリートでしたね。その時の共演者、ヘルムート・ドイッチュが、ここでもピアノ伴奏を担当しています。
この録音は、クレジットでは「コンサートのライブ」となっています。確かにバックには観客のざわめきのようなものが聞こえますし、おそらくその時に撮影されたのでしょう、ブックレットにはマイクがたくさんセットされた会場で拍手にこたえている写真もありました。ただ、その会場はかなり狭い空間のようですから、「コンサート」というよりは「公開レコーディング」のような場だったのではないでしょうか。最後の曲のあとでも拍手は入っていませんし。入れておけば良かったのに(それは「後悔レコーディング」)。
「美しき水車屋の娘」は大好きなリート集で、昔から良く聞いていました。「冬の旅」ほど暗くはなく(あくまで曲調がですが)、それほど深刻になることはありませんし、主に歌っているのがテノールですから、なにか「軽い」感じもしていました。伴奏がピアノではなく、フォルテピアノとか、ギターでも違和感はありません。そして、例えば「冬の旅」のツェンダー版のように無茶苦茶な扱いを受けるようなこともないのではないか、などと、全く根拠のないことを考えたくもなるような、ただ暗いだけの世界はこの中にはありません。
ここでのカウフマンは、まさに、そんな元気の良い若者のような、明るさ丸出しで曲を始めます。それはあくまで、この連作リートのストーリーを意識したものなのでしょう。前半はノーテンキに好きな女性に出会えた喜びに浸っているものの、それが他のオトコに走ってしまったために失意に陥り、最後は小川に身を投げる、というプロットです。ただ、それにしてもここでの彼はいつもの緻密な歌い方とはちょっと違って、すこし羽目を外しているようにも思えてしまいます。正直、歌い方は乱暴ですし音程もかなりいい加減。「娘は僕のものだ!」と大声でがなり立てる様子は、まるでやんちゃ坊主がダダをこねているように聞こえてしまいます。
それだからこそ、伴奏のドイッチュのピアノのうまさが光ります。ちょっと暴走しそうになるテノールを、巧みに操っている様子が良く分かりますし、曲集全体の構成をしっかり見据えた上での音楽作りで、しっかり歌手をサポートしているのではないでしょうか。もっとも、それでもカバーできずに、ついはみ出てしまう、というような場面も見られますが、まあそれは「ライブ」ならではのテンションがもたらしたものなのでしょう。
しかし、曲が進み、失恋モードになるにつれて、だんだんカウフマンの表現も落ち着いてきて、やっと安心して聴いていられるようになります。音程もだいぶマシになってきますし、声にも輝きが出てくるようになってきます。さらに「しぼめる花」あたりからは、「張った」声ではない、「抜いた」ソット・ヴォーチェがとても心地よく聴けるようになってきます。これは前半にも用いていたものですが、そこではいかにもとってつけたような印象は拭えませんでした。しかし、それが次第に必然的な表現としてこなれてきたのですね。
ですから、それを最大限に駆使した終わりの2曲「水車屋と小川」と「小川の子守唄」には、ちょっとゾクゾクするほどの凄さがありました。短調で歌われる「水車屋=若者」と、長調で歌われる「小川」との対話の妙、そして、なんとも慈愛に満ちた「子守唄」、確かに、今までちょっと乱暴気味に歌っていたのは、最後のこれらの曲を引き立てるための伏線だったですね。とても細やかな神経を使った繊細で感動的な世界が、そこにはありました。

CD Artwork © Decca Music Group Limited
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by jurassic_oyaji | 2009-10-16 21:06 | 歌曲 | Comments(0)