おやぢの部屋2
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LANG/The Little Match Girl Passion
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Paul Hillier/
Theatre of Voices
Ars Nova Copenhagen
HARMONIA MUNDI/HMU 807496(hybrid SACD)




1957年生まれのアメリカの作曲家、デヴィッド・ラングの最近の合唱作品を集めたアルバムです。カーネギー・ホールの委嘱によって、ここで演奏しているヒリヤーとシアター・オブ・ヴォイセズのために作られたのが、タイトル・チューンの「マッチ売りの少女」という、演奏時間が35分の大作です。緑色のソフトクリームを売っている女の子の話ですね(それは、「抹茶売りの少女」)。いや、もちろん有名なアンデルセンの童話が元になっている作品なのですが、その童話に、なんとバッハの「マタイ受難曲」を合体させた、というのが、この曲の最大のセールス・ポイントとなっています。ともに「救済」というテーマは共通しているものの、なんともすごいことを思いついたものです。
とは言っても、その「合体」は音楽的な面ではなく、主にテキストについてだけのことのように思われます。なにしろ、最初の曲が「Come, daughter」で始まるのですからね。もちろん最後の曲も「We sit and cry」です。言い忘れましたが、この曲は全体が英語の歌詞、したがってバッハの中で使われていたピカンダーのドイツ語の歌詞も、英訳されたものを用いています。ですから、ブックレットにはフランス語とドイツ語の対訳が載っているのですが、その「ドイツ語訳」はピカンダー→英語→ドイツ語という手順を踏んだものになっていて、元のものとは微妙に異なっているのが笑えます。終曲だと「Wir setzen uns mit Tränen nieder/Und rufen dir im Grabe zu」という歌い出しだったものが、ここでは「Wie sitzen und weinen/Und rufen dir zu」となっている、といった感じです。
そんな曲に挟まれて、本体はレシタティーヴォ風の部分とアリア風の部分が交代に演奏されていきます。そのレシタティーヴォで使われているのが、「マッチ売りの少女」の物語、そして、アリアにはやはりマタイで用いられたテキストが歌われます。
と、外観的にはまさに「マタイ」の形をそのまま踏襲しているように見えますが、音楽的にはバッハとはほとんど共通したところのない、おそらく現在の「現代音楽」の主流を占めているようなサウンドが広がります。それは、耳には極めて心地よい、基本的に同じ音型の繰り返しから成る音楽、少し前なら「ミニマル」という範疇に収められていたようなものでした。作曲家で言えば、アルヴォ・ペルトあたりに非常によく似たテイストでしょうか。なんでも、ラングという人は初期の作品ではかなり刺激的で、強烈なリズムを強調したような作風だったようですが、そんなところにもペルトとの類似性を見ることが出来ます。いや、若い頃は「前衛」的な手法で暴れ回っていても、次第に穏健で耳に優しい音楽に変わっていく(変えていく)というのは、今の殆どの「現代」作曲家のたどる道なのかもしれません。
しかし、この曲の場合には、テキストの扱い方がとてもユニーク。小さな言葉の断片を多層的に組み上げて、不思議なテクスチャーを作り出しているのが一つの魅力として迫ってきます。そう感じられたのは、言葉が英語によるものだったせいなのかもしれません。
打楽器やグロッケンを演奏しながら歌っている4人のシアター・オブ・ヴォイセズのメンバーは、とても透明感のある声で、そんな繊細なテクスチャーを表現しています。彼女たちの声そのものの魅力は、この作品の空虚な本質を、もしかしたら覆い隠してくれているのかもしれません。
後半では、やはりヒリヤーが音楽監督を務めているアルス・ノヴァ・コペンハーゲンが加わって、もう少し厚い響きを聴かせてくれています。ただ、このコラボレーションが必ずしも良い結果を生み出してはいないと感じられるのは、同じ指揮者による合唱団でも、この二つの団体は目指すものがかなり異なっているせいなのでしょうか。

SACD Artwork © Harmonia Mundi USA
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by jurassic_oyaji | 2009-11-11 20:51 | 合唱 | Comments(0)