谷道夫著
宮日文化情報センター刊
先日の飯野さんご逝去の情報(
10日以上経って、やっと新聞に訃報が載りました)を受けて、あちこちネットをさまよっていたら、デューク・エイセスのリーダー谷さんの著作が出版されていることを知りました。なかなか興味のつきない本のようなので入手してみようと思い、
Amazonなどで検索してみたのですが、どうも取り扱っていないようなのですね。情報によると、デューク・エイセスの事務所に連絡をすれば直接送ってもらえるようなので、公式サイトにあった
アドレスにメールを出してみました。と、翌日、その送ったアドレスからの返信が届きました。なんと敏速な対応、と思って文面と差出人を見ると、それは谷さんご本人からのメールだったではありませんか。「個人的なことなので、私が直接お送りします」と書いてありましたよ。なんとも気さくなメールに、ちょっと驚いてしまいましたよ。
本が届いたのはその2日後、谷さん直筆の封筒に入っていましたし、本にはサインまで。
もうこれだけで、大感激です。なんたって日本のコーラスグループの先駆けとして、常にトップを走ってきて、来年は創立
55周年を迎えるというあの尊敬するデューク・エイセスの谷さんが、これだけ親密なコンタクトを取ってくれたのですからね。まさに、ファンを大切にするという彼らの姿勢を、直に体験した思いです。
その本は、谷さんの出身地、宮崎の宮崎日日新聞に連載されたエッセイをまとめたものでした。1回分が見開きの2ページに収まっているというとても読みやすいスタイルです。ヒマのあるときに何回分か読んでいけばいいかな、と思って読み始めたら、その面白さに惹かれて、とうとうそのまま一気に最後まで読破してしまいましたよ。
それは、執筆中には
70歳に手が届く年になっていた谷さんの、まさに「自分史」でした。ご自身の2代前のお爺さまの経歴から始まって、幼少時代の思い出につなげる、という壮大な導入です。少年時代のやんちゃな生活、それを見守るご両親など、当時は当たり前でももはや今では失われつつある温かい家庭が描かれるとともに、あの「戦争」の悲惨な体験も、いともさりげなく語られています。それは、単なる「自分史」ではない、その頃の日本人が共有できる確かな「歴史」の1ページとなっています。
最も関心のあった、谷さんがコーラスグループを作る経緯も、詳細に、そう、まさにご本人だからこその正確さをもって伝えてくれています。創設当時の状況や、その時期のメンバーの変遷なども、今まで断片的にしか知らなかったことが、一気に明らかになった思いです。一つ重要なのは、「先輩」の「ダーク・ダックス」や、「後輩」の「ボニー・ジャックス」たちのように、すでに学生時代に合唱団の中で一緒にやっていたメンバーが集まったわけではなく「ジャズが歌いたい」という人達がプロとして活動していくために集まった団体だ、ということなのではないでしょうか。なによりも「まず基本は練習だ」、という言葉には、長年第一線で活躍してきたグループとしての重みがあります。
折々に語られる谷さんの音楽観にも、納得させられるものがあります。谷さんは、昔からその時々のヒットチャートをしっかりチェックして、デュークの演奏にも取り入れてきていたそうですが、最近の「ラップやヒップホップ」には違和感を抱かずにはいられないとおっしゃっています。それは、日本語を美しく歌い続けることに心を砕いてきた谷さんたちの、切実な思いなのでしょう。
実はまだ、飯野さんに換わる新メンバー、大須賀さんが加わった新生デューク・エイセスの歌声を聴いてはいません。もう75歳にもなった谷さんたちが、また新たにハーモニーを築きあげようとしている勇気を、これから見守っていきたいと思います。そういえば、谷さんは食らいついたら離れない「戌年」生まれでし
たに。
Book Artwork © Makoto Wada