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BACH/Flute Sonatas
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有田正広(Fl)
有田千代子(Cem)
DENON/COGQ-40(hybrid SACD)



世界で最初にデジタル録音を実用化したDENONレーベルですが、SACDはほんのわずかしか出してはいません。この、有田さんのモダン・フルートによるバッハがたまたまそんな貴重なSACDだったのには、幸せを感じてしまいます。実際に同じトラックでSACDレイヤーとCDレイヤーを比較してみると、その違いは歴然としていますからね。
フラウト・トラヴェルソの名手として世界的に知られている有田さんがバッハのソナタをこのレーベルに録音したのはこれが1989年、2000年に続いて3度目のことなのだそうです。これまでの2回は当然トラヴェルソで演奏しているのですが、今回はなんと「モダン・フルート」で演奏しているということで、各方面に多くの話題を提供しています。「モダン」といっても、別に焼きそばが入っているわけではなく(それは「モダン焼き」)、テオバルト・ベームによって19世紀半ばに大幅な「改良」が施された楽器のことを指し示します。最初は木製でしたが、次第に金属製の管体が主流になっていきますね。それと同時に歌口のデザインなども細かいところで変化が加えられ、トラヴェルソとは同じ楽器とは思えないほどの音色を持つものに変わってしまっています。ここで有田さんが使っているのは、ヘルムート・ハンミッヒというドイツの名工が1968年に作った銀製の楽器です。「モダン」とは言っても、決して華やかではない、渋さを持った楽器として知られています。ちなみに、同じレーベルの高木綾子さんも、同じ人が作った楽器を吹いています。
有田さんという方は、いかにもオリジナル楽器のエキスパートのようなイメージが強いのですが、実は、トラヴェルソを吹くようになる前には、「普通の」フルート奏者でした。なにしろ、国内のコンクールでは最も権威があるとされる「日本音楽コンクール」で優勝しているのですからね。つまり、彼が目指しているのは、「すべての時代のフルートに通じる」ということだったのですね。近年はそんなフルートの歴史を実際の演奏を通して体験できるようなコンサートも企画されていますが、そこではドビュッシーのような「新しい」作品は、きちんと「モダン楽器」で演奏していますし。
そんな有田さんだからこそ、トラヴェルソでバッハを演奏するときの限界のようなものにも気づかれたのでしょう。それは、楽器や演奏様式はバロック時代を再現できたとしても、それを演奏する場所が必ずしもバッハ時代と同じものではない、ということなのではないでしょうか。多くの観客を前にして大ホールで演奏する時には、せいぜい数十人を前にして演奏するために作られた楽器では本来の味を伝えることは非常に困難になってくるのは、容易に分かることですからね。「現代の聴衆」に対しては「現代の楽器」が必要なのです。
そんな、一見矛盾を含んだかに見える試みを、有田さんはいとも淡々とやってのけています。なんのことはない、いままでトラヴェルソで極めてきたバッハの音楽を、そのままベーム管でも貫いている、というだけのことだったのです。そこからは、いつもと変わらない、ただほんの少し輝きのある音色の「有田さんのバッハ」が、ほんの少し高いピッチと、格段に正確な音程で聞こえてきましたよ。
1枚組ということで、偽作の可能性の高い変ホ長調のソナタは「シチリアーナ」だけがアンコールのように演奏されています。そこでの装飾は、例えば間奏のあとの23-24小節目のあたりは1989年の録音と全く同じものでした。しかし、その時には装飾を入れていなかった25小節目で、明らかにミスをしたと思われる箇所がそのままになっているのは、編集を担当していたプロデューサーの国崎裕さんの責任でしょう。「画竜点睛を欠く」とは、こういうことなのでしょうね。

SACD Artwork © Columbia Music Entertainment
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by jurassic_oyaji | 2009-12-28 20:47 | フルート | Comments(0)