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CHILCOTT/Making Waves
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Iain Farrington, Alexander Hawkins(Pf)
Michael Chilcott(Bas), Derek Scurll(Dr)
Bob Chilcott/
The Sirenes
SIGNUM/SIGCD142




ボブ(ロバート)・チルコットといえば、今では多くの合唱団がその作品を演奏会やコンクールのレパートリーに取り入れている合唱作曲者として有名です。しかし、彼は最初から「作曲家」として、そのキャリアをスタートさせたわけではありませんでした。生まれたのは1955年、ケンブリッジのキングズ・カレッジに学んだチルコットは、そこの聖歌隊に所属、まずはボーイ・ソプラノのシンガーとして音楽家としての人生を歩み出すのです。1967年にデイヴィッド・ウィルコックスが自分の聖歌隊でフォーレの「レクイエム」を録音したときには、「Pie Jesu」のソリストとして抜擢もされました(このEMIの録音は今でも簡単に手に入ります)。
さらに、1986年には、あのキングズ・シンガーズに、アラステア・トンプソン、ビル・アイヴスに続く3代目のテノールとして参加することになります(先代のアイヴスも、今では作曲家になっているというのは奇遇ですね)。この時期には、このグループのために多くの編曲を行っています。それから12年間、メンバーとして活躍した後、1997年からは、「作曲家」として独り立ちすることになったのです。
このアルバムでは、チルコットが児童合唱のために作った作品が演奏されています。彼が作曲家として活動を始めたときに最初に委嘱されたのが児童合唱団だったということですが、それ以来この分野の作品を数多く手がけることになったそうです。ここで演奏している「サイレンズ」という合唱団は、この録音のためにわざわざ集められたもので、ライナーには「若い人」を集めたような書き方がされていますが、声を聴く限り、「児童」ではなく、おそらく10代後半ぐらいの「女声」のメンバーのような気がします。トニー谷には関係がありません、念のため(それは「サイザンス」)。
「彼女」たちの歌は、そんな寄せ集めの団体とは思えないほどのまとまりを見せています。声もよく揃っているし、響きに破綻はありません。しかし、そこからは心を揺り動かすような強い訴えかけは、殆ど感じることはできません。それは、演奏者というよりはチルコットの作品の性格に主に責任があるような気になってきます。タイトル曲の「Making Waves」という、マルコニーの無線通信を記念してのイベントに際して委嘱された作品こそは、モールス信号のSEが入ったりしていてちょっと耳をそばだてられるのですが、それ以外のものは単に「美しい」というだけで、何か物足りないものがついて回ります。ほんと、メロディなどはとてもキャッチー、それこそミュージカルなどを作ればさぞかし成功するのでは、と思えるほどの作風なのですがねぇ。
ところが、最後に入っている「ジャズ・ミサ」として良く知られている(最近、生演奏を聴きました)「A Little Jazz Mass」になったとたん、この合唱団のテンションが全く変わってしまっていることに気づかされます。伴奏に本物のジャズのトリオが加わって、なんともかっこいいグルーヴが醸し出される中、彼女たちはそれまでの「お嬢さん」っぽい歌い方を見事に脱ぎ捨てて、まるでゴスペル・コーラスのようなノリのよい演奏を始めたではありませんか。「Benedictus」あたりでは、ちょっと微妙な音程まで駆使して、見事に「ジャズ」っぽい味を出しているのですからね。
もしかしたら、このあたりがチルコットの最も得意としているジャンルなのではないでしょうか。今年、2010年に初演が予定されている「レクイエム」がいったいどういうものになるのか、楽しみになってきました。
正直、キングズ・シンガーズ時代のチルコットは、前任者の透明な声のアイヴスと比べてしまって、あまり好きにはなれませんでした。ですから、彼が「シンガー」を辞めて、「フルタイムの作曲家」に転身したのが、とても嬉しく感じられます

CD Artwork © Signum Records
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by jurassic_oyaji | 2010-01-06 20:39 | 合唱 | Comments(0)