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ただたけだけコンサート
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伊東恵司/
なにわコラリアーズ
GIOVANNI/GVCS 10910



岐阜市にある「ジョヴァンニ」という通販サイトは、合唱関係のCDや楽譜を手広く扱っていて、その方面のファンには得難い存在です。参考音源を入手するなど、練習の序盤には、何かとお世話になることでしょう。各地のアマチュア合唱団のコンサートのライブ録音などを数多くプライヴェート盤としてリリースしているのも、見逃せません。
今回の新譜は、大阪の男声合唱団「なにわコラリアーズ」のコンサートの録音です。この合唱団は、何年か連続して合唱コンクールの全国大会で金賞を獲得していたという、いわば「日本一の男声合唱団」です。技術的なレベルの高さはもちろん折り紙付きですが、常に新しいレパートリーに挑戦して、ついマイナーになりがちな男声合唱の世界に新鮮な息吹を送り込んでいるのは、特筆すべきことです。エストニアの作曲家トルミスなどが、最近多くの合唱団で取り上げられるようになったのも、彼らの功績でしょう。
そんな彼らが、最近、いわば日本の男声合唱曲の「古典」である多田武彦の作品ばかりで構成されたコンサートをシリーズで開催する、という企画を立てました。指揮者の伊東さんという方は、いかにも大阪人らしいユーモアのセンスの持ち主のようで、そのコンサートのシリーズに「ただたけだけコンサート」という、まるで早口言葉のようなタイトルを付けましたよ。それは、自身の合唱団の名前を「なにこら」などと略しているのと同じ発想なのでしょうね。昨年の1月に京都の長岡京記念会館で行われたその第1回目のコンサートが、この「Vol.1」です。
多田武彦というのは、1930年生まれ(まだご存命です)の、ほとんど合唱曲しか作品がない作曲家です。というのも、彼は「専業」の作曲家ではなく、かつてはさる大手銀行に勤務していたというビジネスマンでした。仕事のかたわら、主に学生時代に身をおいた男声合唱の曲を数多く作ることになるのです。その作品には、男声合唱の響きを知り尽くした、「歌って心地よい」ツボが満載なのは、そんなご自身の体験が遺憾なく盛り込まれているからでしょう。さらに、「現代」ではちょっと恥ずかしくなってしまうようないかにも青臭い、しかし、それだからこそ心の深いところでつい共感出来てしまうような情感は、独特の持ち味となっています。
ここで「なにこら」が歌っているのは、1954年のデビュー作「柳河風俗詩」、1958年の「中勘助の詩から」、そして、後期の作品である1977年の「わがふるき日のうた」の3曲です。1曲目と2曲目は、まさに男声合唱団のスタンダードナンバー、おそらく、実際に男声合唱を体験されたことのある方でしたら、必ずこの中の曲の1つや2つは、歌ったことがあることでしょう。もちろん、そんな体験などなくともクラシック・ファンとして生きていくことは出来るのですから、そんな人にとってはもしかしたらこれは「初めて」聞く作曲家と、作品なのかもしれません。そして、実際に音を聴いてみても、たいしたものではないと見向きもしないかもしれませんね。
それはそれで良いんです。おそらく、多田武彦の作品は、そもそもマーラーやベートーヴェンなどと肩を並べようなどという大それたことははなっから考えていない、いともさりげないたたずまいの中にあるものなのですからね。あえて広い世界に出ようとはしない、あくまで限られた社会の中での、言ってみればマニアックな音楽なのです。
もちろん、それは彼の作品の魅力であるとともに、ある意味閉鎖的な聴き手の中だけでの自己満足に終わってしまう側面にもなり得ます。ここでの「なにこら」の演奏も、そんな弱気な「ただたけ」の世界で完結しています。それで良いんです。アンコールの「雨」で見せてくれたようなとてつもない深さが、全部の曲を覆っていたりしたら、さぞやうっとうしかったことでしょう。

CD Artwork © ARLMIC Company, Limited
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by jurassic_oyaji | 2010-01-18 21:05 | 合唱 | Comments(0)