おやぢの部屋2
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オーケストラが好きになる事典
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緒方英子著
新潮社刊(新潮文庫)
ISBN978-4-10-130381-9


しばらく前から、「クラシック音楽」が「ブーム」になっているのだそうです。確かに、あの「のだめカンタービレ」あたりが一つの契機となって、確実に新しいファン層が広がってきているのは間違いのないことなのでしょう。この本は、そんな「のだめ」がそろそろ注目され始めたかな、という、まだブレイクにまでは至っていなかった2003年に出版された「オーケストラ楽器おもしろ雑学事典」を改題、さらに広い読者層を対象とした文庫本としてリニューアルされたものです。しかし、著者は文庫化にあたって、かなり大幅な加筆を施した、ということなのですね。なんでも、この中で取り上げられているオーケストラの団員たちへのインタビューを、すべて新しいものに差し替えた、というのです。忙しい時間を割いてくれたプレーヤーに逐一インタビュー、それを原稿に起こすという、恐ろしく手間のかかる作業をあえて行ったのは、もしかしたら「のだめ後」を意識したものだったのかもしれませんね。確かに、マンガ→テレビドラマやアニメ化→映画化といった一連の動きに伴って、「クラシック音楽」を取り巻く状況は「のだめ前」とはガラリと変わってしまいましたから、以前のインタビューなどはかなり古く感じられてしまうのでしょう。あいにく、前作は入手していないのですが、機会があったらぜひそのあたりを比較検討してみたいものです。
例えば、茂木大輔さんの著作に見られるように、実際に音楽の現場で華々しい活躍をしている演奏家の体験からは、間違いなく、決して門外漢には知ることの出来ない興味のある事実を知ることが出来ます。そんな知識を、すべての楽器の演奏家(いや、その他に指揮者や作曲家まで)からの体験から引き出そうとしているのですから、この著作がいかに膨大な情報にあふれているかは想像に難くありません。事実、フルートに関しては、金属製の楽器についてはかなりマニアックなことまで知っているつもりでいても、ここに登場するN響の神田さん(駅の伝言板に「金太待つ、神田」と書いた人ですね)が、ご自身の木製の楽器について語られているのを読むと、実際にそのような楽器を使っていなければ決して分からないトラブルがあるものだと、感じ入ってしまいますし。
もちろん、微妙なところで、いかにリサーチを行ってもカバーできなかったところが出てくるのは、やむを得ないことなのでしょう。クラリネットに関する項目が、そんな、ちょっと「?」を感じてしまう部分です。そもそも、最初に載っている楽器の写真が左右反対、「裏焼き」の画像なのですからね(銀塩写真のネガを裏返すことはかつては良くあったのでしょうが、デジタルの画像を裏返すのは、逆にかえって手間がかかることなのに)。そして、「ドイツ式」の楽器についても、「ハンマーシュミット(中黒は入りません)」や「ヴリツァー」というメーカー名を出す前に「ベーム管」に対して「エーラー管」という概念を提示すべきなのでは、と思うのですが。また、リガチャーにひもを用いるのも、必ずしもドイツ式の特徴ではないような気もしますし。
いや、そもそも、すべての楽器について完璧な知識を持つことなど、あり得ませんので、そんな些細なことは見逃すべきでしょう。なんたって、指揮者の飯森さんが語る「オーケストラの事故」など、興味深い話が満載なのですからね。クラリネット奏者が「ボレロ」のソロを1拍長く吹いてしまったために、それが他の奏者にまで伝染してしまったなどというエピソードは、とても他人事とは思えませんよ。なにしろ、チャイコフスキーの交響曲第1番で、フルートソロが1小節早く出てしまったら、それに続くオーボエとクラリネットのソリストまでが仲良く同じミスを繰り返した、という現場に居合わせたことがあるものですから。

Book Artwork © Shinchosha
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by jurassic_oyaji | 2010-02-02 23:29 | 書籍 | Comments(0)