おやぢの部屋2
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DUBRA/Choral Music
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Rupert Gough/
The Choir of Royal Holloway, University of London
HYPERION/CDA67799




バルト3国と呼ばれているバルト海に面した3つの国、エストニア、ラトヴィア、リトアニアは、ともに「合唱王国」と呼ばれるほどの合唱が盛んな国々です。世界的に有名な合唱団もたくさん存在しているのは、ご存じの通りでしょう。もちろん、作曲家もエストニアのトルミスやペルトなどは今では確固たる地位を築き上げ、多くの団体がその作品をごく日常的に演奏するようになっています。
1964年生まれ、まだ若手のラトヴィアの作曲家リハルト・デュブラ(もちろん男性、ノーブラです)も、そんなブレイク寸前の存在なのかもしれません。合唱関係者の間ではすでにかなりの知名度が得られているものが、このようにHYPERIONレーベルで紹介されるようになれば、さらに多くの人に聴かれることになることでしょう。
自身も敬虔なカトリック教徒で、リガの教会のカントールも務めているデュブラの、これはラテン語によるモテットやミサを集めたアルバムです(1曲だけは英語)。演奏しているのは、あまり馴染みのない合唱団ですが、実は以前ご紹介した、NAXOSから出たカーソン・クーマンの合唱作品集で歌っていたのですね。ロンドン大学の数多くのカレッジの中でも最大のもの、ロイヤル・ホロウェイの学生による聖歌隊です。なんでも、ここの卒業生はイギリスの名だたる合唱団、例えば「ザ・シックスティーン」、「タリス・スコラーズ」、「ガブリエリ・コンソート」、「テネブレ」、「オクセンフォード・クラークス」などのメンバーになっているのだそうです。こういうのを見ると、イギリスの合唱音楽の底辺の広さをまざまざと感じさせられますね。
クーマンの時には、曲も曲ですし、オルガンの伴奏がやかましくてなかなか合唱団の素の声が分からなかったのですが、ここでア・カペラの演奏を聴くと、あの時かすかに感じたピュアなサウンドが、くっきりと広がっているのが味わえます。女声パートが、まるで少女合唱のように無垢な感じなのですね。ただ、それは時として表現の幼さにも通じるという、かなり危ないところでの勝負になるのですが、デュブラの作品の場合は、かろうじてそれが良い方に作用しているのではないでしょうか。
そう、彼の作品は、表面的にはそれほど「表現」というか、強くなにかを訴える、といったことに重きを置くものではないように聞こえてきます。「ネオ・ロマンティシズム」とか、「聖なるミニマル」、あるいは「ヒーリング」といったさまざまなタームでくくられている、現在の音楽界のほとんど「主流」と言ってもかまわない、極めて耳に心地よい和声とメロディ・ラインを持つ音楽の、ひとつの典型なのではないか、と。
このアルバムの中で最も初期の作品、1989年に作られた「Ave Maria I」などは、まさに「ロマンティック」そのもの、シューマンやメンデルスゾーン、あるいはブルックナーの曲だ、といって聞かせても信じられてしまうほどの「伝統的」な作風です。しかし彼は、もちろんそこにとどまって、ただの「ロマンティスト」であり続けるほどの愚かな作曲家ではありませんでした。同じテキストで1994年に作られた「Ave Maria III」では、冒頭からテンション・コードのパルスによる変拍子のオスティナートが出現するという、完全に「現代的」な手法に変わっていたのです。それは、ソヴィエト連邦が崩壊して、音楽を巡る環境が一変したことの、端的な表れなのでしょう。
2001年に作られた、アッパー・ヴォイス(つまり女声)とオルガンのためのミサ曲あたりになると、そんな時代を超えたロマンティシズムは、彼の固有の語法として成熟を見せています。流れるような合唱に絡むいかにもミニマルっぽいオルガン、そして、最後「Dona nobis pacem」で出現する、ループによる混沌、そこには、心地よさを遮らないだけの、さりげない「主張」までも感じることができます。

CD Artwork © Hyperion Records Ltd
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by jurassic_oyaji | 2010-02-06 23:02 | 合唱 | Comments(0)