おやぢの部屋2
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TORMIS/Forgotten Peoples
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Tönu Kaljuste/
Estonian Philharmonic Chamber Choir
ECM/434 275-1(LP)



先日お亡くなりになった浅川マキさんは、生涯CDの音に不満を感じられていたそうですね。「CDはジャズじゃない」とおっしゃって、かつてLPで出ていたアルバムをCDにして販売することを許さなかったのだとか。エンジニアの耳ではなく、あくまでミュージシャンとしての研ぎ澄まされた感覚が、そのように言わせたのでしょう。しょうがないですね。
そんな風に、CDの音というのは、LPに比べると何かが足らない、と感覚的に思っている人は多いのではないでしょうか。理論的には、デジタル録音をそのままデジタルデータで記録しているのですから、CDの方がいい音のはずだ、と思いながらも。しかし、例えばSACDなどで、同じデジタルでもCDよりはるかに良い音を聴くことが出来る体験を持ったりすると、実はCDはそれほど良い音のメディアではなく、LPの足元にも及ばないものなのではないか、と気づくことになります。
実際、最近になって作られたLPのテスト盤を聴いたときには、かつてかなり耳障りだったサーフェス・ノイズや、スクラッチ・ノイズなどが全く聞こえなかったこともあって、その伸びのあるしなやかな音は間違いなくCDを超えたものだという実感が持てました。そう、素材まで吟味して、細心の注意を払って作られたLPは、CDなどはるかに超えた素晴らしい再生音を聞かせることが出来るのです。
そんな認識を持つようになった頃、ECMのカタログを眺めていたら、なんと、このレーベルでは今でもLPを販売しているというではありませんか。なんでも、昨年2009年に創立40周年を迎えたECMが、その記念に限定生産したものなのだそうです。さっそく入手したのがこれです。録音されたのは1990年、そして、1992年にCDがリリースされています。
現物を手にしてみると、それはこの間の「テスト盤」の素っ気なさとは異なり、まさにかつて馴染んだ「レコード」そのものの感触でした。2枚組みのダブルジャケット、中には歌詞の入った同じサイズのブックレットも入っていて、CDに比べたらなんとも贅沢なつくりです。
音は、予想通りの素晴らしさでした。収められているのはトルミスが長い年月をかけて作り続けた「Forgotten Peoples」という、エストニア近隣の広い地域の、それぞれの民族音楽を再構築したシリーズです。1970年の「リヴォニアの遺産」から始まり、この録音が行われた少し前、1989年に作られた「カレリアの運命」まで、全部で6つの部分がセットとなった大作です。ここでトルミスがまず求めたのは、昔から伝えられていた民族的な発声によって歌うことだったのでしょう。エストニア・フィルハーモニー室内合唱団はそれに応えて、見事に素朴な発声に徹しています。そのゾクゾクするほどの生々しさが、このLPからはまさにストレートに伝わってくるのです。「カレリア」(2枚目のB面)の3曲目、「ヴィルの奴隷」に登場するテノール・ソロの「地声」といったら。CDは聴いたことがありませんが、おそらく、これほどのみずみずしさは味わうことは出来ないはずです。
しかし、とても残念なことですが、このLPの盤質は最高のものとは言えませんでした。まず、ターンテーブルに乗せて回転を始めたときにすぐ気づくのですが、レコード自体がかなり反っているのです。場所によっては、ターンテーブルの表面から1㎜程度の隙間が出来ているところもありました。そんな雑な作り方ですから、サーフェス・ノイズもかなりのものです。そして、見た目には傷など全くないところで、かなり派手なスクラッチ・ノイズが発生しています。おそらく、コンパウンドの材質に起因しているのでしょう。「テスト盤」で見られた驚異的な品質は、あいにくこのレコードをプレスした工場では到底達成できないものだったのでしょうね。「失われた民族」ではありませんが、一度失われてしまった「レコード製造技術」という文化は、容易に取り戻せるものではないのかもしれません。

LP Artwork © ECM Records
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by jurassic_oyaji | 2010-02-12 21:15 | 合唱 | Comments(0)