おやぢの部屋2
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The Piano at the Carnival
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Anthony Goldstone(Pf)
DIVINE ART/DDA 25076




バンクーバー・オリンピックでさまざまな「感動」に浸れる人は幸せです。先日の女子フィギュアスケートなども、全国津々浦々でそんなドラマに「感動」のコメントを寄せられた人は数知らず、美しいことです。
ご存じのように、金メダルの期待を一身に背負ったあの選手が選んだ曲は、ショート・プログラムではハチャトゥリアンの「仮面舞踏会」からの「ワルツ」、フリーではラフマニノフの「鐘」でしたね。「ワルツ」はともかく、「鐘」と聞いて一瞬あの合唱曲かな、と思ってしまいましたが、聞こえてきたのは有名なピアノのための前奏曲(op.3-2)をオーケストラ用に編曲したものでしたね。「ワルツ」の場合はもともとオーケストラ曲ですから、これがオリジナル、と思いきや、別の意味での「編曲」があったのは笑えます。
今回のCDは、フツーの「編曲」、「ワルツ」だけではなく「仮面舞踏会」全5曲をアレクサンドル・ドルハニャンという人がピアノ・ソロの曲に直したものです。本来は色彩豊かなオーケストラが演奏する曲ですから、それをピアノ1台だけで演奏するのではさぞや物足りないだろうな、とは、誰しもが考えることでしょう。しかし、ここではまさにピアノならではの魅力が生まれていたのですから、面白いものです。
もちろん、ソロ・ヴァイオリンが切々と哀愁に満ちたメロディを奏でる「ノクターン」や、やはりトランペットがソロで朗々と歌い上げる「ロマンス」のように、その息の長い旋律をピアノだけで表現するのは、ちょっと辛いな、と感じられる曲はあります。しかし、「ワルツ」などは、オーケストラではたくさんの楽器でやや重々しく聞こえてしまうものが、ここではいとも軽やかなフットワークに変わっています。
そして圧巻は、最後の「ギャロップ」です。いともひょうきんな曲想、なんと、最初のテーマはすべての音が半音でぶつかるというケッタイなものなのですが、実はこれをオーケストラで演奏するのは意外と難しいのです。実際には、フルート、オーボエ、クラリネットの、それぞれ2番奏者が本来の旋律を吹いて、1番奏者のその半音上の調で同じ旋律を吹いています。つまり、6人の奏者が、この微妙な音程をまさにアクロバットのように操って演奏するのですから、ピッタリ揃えることなどまず不可能なのですよ。それが、ピアノだったらどうでしょう。もう、しゃくにさわるぐらい完璧に、その音符を音にしていますよ。それもいとも軽やかなテンポで。
さらに、終わり近くに出てくるクラリネットのカデンツァも、指がもつれるぐらいの苦労をして吹いているものが、なんともすんなりと弾けてしまうのですからとても勝ち目はありません。そう、このピアノ版「仮面舞踏会」は、まさにオーケストラの奏者をあざ笑うためにあるのでは、とさえ思えてくる、小憎らしい編曲と、そして演奏なのです。
ところが、同じくオーケストラ曲をピアノ独奏用に編曲したものでも、ドボルジャークの「謝肉祭」(編曲はパウル・クレンゲル)となると全く様相が変わってしまうのですからまたまた面白いものです。先ほどまでの軽やかさはどこへ行ってしまったのか、いかにもモタモタした演奏でオケの持つ疾走感などは全く感じられないものになってしまっています。これなどは、多くの声部をコントロール出来なくなっている編曲上の問題なのかもしれませんね。
その他には、おそらくこのアルバムのメインであるシューマンの「謝肉祭」などとともに、ピアニスティックな名人芸が堪能できるものが揃っています。中でもシドニー・スミスという、19世紀後半に活躍した人の「ヴェルディの「仮面舞踏会」による華麗な幻想曲」が、聴き応えのあるパラフレーズでした。イチゴのスイーツではありませんよ(それは「パルフェ・ア・ラ・フレーズ」)。

CD Artwork © Divine Art Ltd
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by jurassic_oyaji | 2010-03-06 23:57 | ピアノ | Comments(0)