おやぢの部屋2
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BEETHOVEN/9. Symphonie(Arr. Mahler)
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Gabriele Fontana(Sop), Barbara Hölzt(Alt)
Arnold Bezuyen(Ten), Reinhard Mayr(Bas)
Kiustjan Järvi/
Slowakischer Philharmonischer Chor
Tonkünstler-Orchester Niederösterreich
PREISER/PR 90773(hybrid SACD)




ベートーヴェンの交響曲は、まさに全人類の遺産、なのでしょう。その精神をより深く大衆に浸透させるために、ある時代の作曲家はその時までに達成されたオーケストラの性能をこれらの曲に反映させるべく、自らの手でベートーヴェンのスコアに改変の手を施していました。オーケストラが音楽史上最大の楽器編成を持つに至った時代を作ったグスタフ・マーラーもその一人です。
マーラーは、1886年のプラハを皮切りに、1895年のハンブルク、1900年のウィーンなどを経て1910年のニューヨークなど、生涯に10回ベートーヴェンの「第9」を演奏しています。そのたびに彼はスコアに夥しい書き込みをして、この作品を「マーラー風」に仕上げた上で演奏していました。なんでも、ハンブルクの時には、第4楽章のテノール・ソロが入る「マーチ」の部分では、離れたところにもう一つ別のオーケストラを用意したのだとか。それ以後の演奏ではさすがにそんな過激なことは行わなかったそうですが、マーラーの死後も、この書き込み入りの楽譜を用いた演奏は行われたそうです。
実は、この「マーラー版」を録音したCDは、1992年にすでにリリースされていました。
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Peter Tiboris/Brno Philharmonic Orchestra(BRIDGE/BCD 9033)

さらに、最近になってその書き込み入りのスコアを一次資料とした「クリティカル・エディション」が、国際マーラー協会のお墨付きで出版されたそうなのです。もちろん、これは現在の主流となっているベートーヴェンの楽譜の「クリティカル・エディション」とは全く異なるコンセプトによるものであることは明白です。これは、あくまでマーラーが行ったことを忠実に再現した「原典版」だということだけは、はっきりさせておく必要があります。これは、その楽譜による「世界初録音」となります。
この「マーラー版」が、オリジナルとはどの程度違っているのかは、実際にそのスコアが手元にあるわけではないので、あくまで耳で聴いて判断する他はありません。さらに、BRIDGE盤と今回のブックレットにも、いくらかは役立つ情報は掲載されていますし。
まず、楽器の編成はあくまでマーラーの基準に従った大きなものになります。木管は倍管、さらにオリジナルにはないEsクラリネットなども加わります。ピッコロなども、もしかしたら2本使っているのかもしれません。ホルンも8パートに増えています。それに伴い、ダイナミックレンジが拡大されます。なんでもピアノ4つからフォルテ4つまでの表示があるのだそうです。
実際に、そんなことは楽譜には関係なく、すでに現場では同じようなことが演奏に反映されている場合がありました。フルートなどは明らかにベートーヴェン時代の楽器では不可能な音を使いたいのに、やむなくオクターブ下げてしまっているような箇所がいくらでも見られるのです。「ソラ↓シド」みたいに、スケールが途中で折れ曲がっているのですね(もっとも、これは現代の楽器でもかなり難しいので、マーラーはどうやらピッコロに吹かせているようですが)。
しかし、マーラーの面目躍如たるところは、そんなチマチマしたことではなく、オリジナルにはなかったパートを新たに加えた、というあたりでしょう。耳で聴いても分かるのがスケルツォの途中、木管だけで演奏されるテーマにトランペットが加わっていて、びっくりさせられます。
しかし、大きな編成で分厚いオーケストレーションの方がより表現力が高まると信じられていたある一つの時代の価値観が反映されたこの「マーラー版」からは、逆にそんな肥大化したオーケストラの負の部分がしっかり感じられてしまうのですから、皮肉なものです。エンディングで、2本に増強(たぶん)されたためになんとも鈍い響きになってしまったピッコロなどが、その好例なのではないでしょう。こうれいは逆効果。それと、この大時代的なスコアで、まるでオリジナル楽器のような軽いフットワークを追求している弟ヤルヴィの姿勢も、理解不能。

SACD Artwork © Preiser Records
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by jurassic_oyaji | 2010-03-10 20:50 | オーケストラ | Comments(0)