Stephen Layton/
Britten Sinfonia
Polyphony
HYPERION/CDA67449先日ご紹介した「テンプルのヴェール」では、会場となったテンプル・チャーチで音楽監督を務めるスティーヴン・レイトンが、あのタヴナーの途方もない作品の音楽面での責任を一手に引き受けて八面六臂の活躍をしていたのは、まだ記憶に新しいところです。揚げ物までは手が回らなかったようでしたが(それは「
テンプラ・チャーチ」)。このレイトンという合唱指揮者は、ひところのトヌ・カリユステのように、現在の合唱界に於いては最も忙しい指揮者の一人なのではないでしょうか。そのテンプル・チャーチでの演奏にも参加していた「ホルスト・シンガーズ」だけではなく、「オランダ室内合唱団」や、「デンマーク国立合唱団」といった実力も実績も飛び抜けている名門団体で首席指揮者などのポストを努めているのですから。そこにさらに、本命として、彼自身が創設した「ポリフォニー」が加わります。ちょっと頭の薄いおどけた容貌とは完璧に相容れない、透明で精緻な高水準の音楽を、その全ての団体から引き出しているレイトン、彼によって活性化された合唱シーンからは、ひとときも目を離すことは出来ません。
その「ポリフォニー」を率いてのアルバムは、
1943年生まれのアメリカの作曲家、モートン・ローリドセン(「ラウリドセン」という表記もあります)の作品集です。この作曲家の名前は、かつて前任者が紹介してくれた
クリスマスアルバムの中の「
O magnum mysterium」の作者として、記憶の片隅にはあったものですが、このようなフルアルバムを聴くのは初めて、写真で実際の髭もじゃの顔を見たのも初めてです。
タイトルの「
Lux aeterna」という、切れ目なく演奏される5つの部分からなる作品は、テキストの構成といい、母親が亡くなったことが作曲の動機になっていることといい、実質的には「レクイエム」と変わらないものです。室内オーケストラの伴奏が入った
30分ほどの、何となくフォーレあたりと似通ったテイストを持つ曲ではありますが、最後の最後に「
Alleluia」などという歌詞を入れて明るく終わるというあたりが、やはりアメリカ人の感性なのでしょうか。3曲目の「
O nata lux」というテキストの、無伴奏で歌われる部分が魅力的です。というより、元のスコアのせいなのか、ここでの演奏者のせいなのかは分かりませんが、オーケストラのパートがなぜか生彩を欠いていて、せっかくの合唱の足を引っ張っているように感じられてしまうのです。オーボエソロのセンスのないこと。
ですから、本当に楽しめるのは、そのあとに入っている無伴奏の曲。「6つのマドリガル」という、イタリア・ルネッサンスの詩に曲を付けたものは、あえてルネッサンスの模倣の道を取らない印象派風の響きが素敵です。そして、最もこの合唱団の「すごさ」が分かるのが、最後に演奏されている3つのラテン語によるモテットです。「
Ave Maria」、「
Ubi caritas et amor」、そして、最初に述べた「
O magnum mysterium」、いずれの曲でも、各パートがそれぞれにとんでもないメッセージを発信しているのに、それと同時に全体の響きが完璧に均質化されているという、理想的な合唱の姿を見ることが出来ます。そして曲の最後、ドミナント→トニカという解決のなんと美しいことでしょう。思い入れたっぷりに伸ばされたドミナントに続く、「音」と言うよりは「気配」と呼ぶにふさわしい、ほとんど静寂に近い極上のピアニシモのトニカ、「感動」とは、こういうものを聴いたときに用意されている言葉に他なりません。