おやぢの部屋2
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TORMIS/Visions Beyond Estonia
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Ants Soots/
Estonian National Male Choir
ALBA/NCD 31




さる合唱指導者によると、「日本の男声合唱団の9割はハモっていない」のだそうです。それは確かに痛いところをついているのかもしれませんね。やはり「男声」と聞いて思い浮かぶのは、なんたって「ハーモニー」よりは「力」ですからね。いや、これは別に「日本」に限ったことではなく、外国の団体でも事情は同じことです。例えば、ロシアの男声合唱なんていったら、地を這うような重た~い声が押し寄せるようなイメージはありませんか?そこでは、ハーモニーなどはどこかへ行ってしまって、ほとんど「クラスター」と区別がつかないような音の「塊」が迫ってくるように思えることでしょう。それでこそ、「ロシアの広大な大地」みたいなものが伝わってくるのではないでしょうか。
フィンランドのALBAレーベルからシリーズでリリースされていたトルミスの男声合唱、実は先日の「カレワラ」の、前にリリースされていたのが、この「エストニアを超えて」というタイトルのアンソロジーでした。代理店の都合かなんか知りませんが、出来れば順番は守って欲しいものです。いずれにしても、「エストニアのヴィジョン」というシリーズの3作が終わったあと、エストニア以外の国の民族音楽を素材にしたトルミスの作品を集めたものになりますね。
ここでは、まずその「ロシア」の曲に、強烈なインパクトを感じることが出来るはずです。英語表記だと「North Russian Bylina」という作品、ここではまさにそんな「ハモり」を超えた「ロシアの響き」を思う存分に味わうことが出来ます。ソリストが同じメロディを繰り返す中を、合唱が追いかけるという単純な手法なのですが、時折大胆な転調で景色をガラリと変えつつ、ひたすら「ハモらない」合唱が続きます。その中では、「オクタヴィスト」という、超低音を出す人の声も聞こえてきます。こうなると、もう理屈ではなく、ほとんど体育会系のノリのサウンドが直接体にまとわりついてくるという快感を堪能することになります。ある意味、マゾの世界ですね。おそらく、この快感は分かる人にしか分からないものなのでしょう。この曲、ずっとロシア語で歌われているものが、最後になってエストニア語で「解説」めいた語りが入ったりするのも、面白いところです。
いや、このエストニア国立合唱団のすごいところは、そんな「特殊な」ものだけを追求しているのではない、というあたりです。同じ民族音楽とは言っても「Three Livonian Folk Songs」あたりになると、まるで別の合唱団なのでは、と思えるほどきれいに「ハモって」いるのですからね。それだけ表現の幅が広いということ、決して「ハモらない」ことを売り物にしているのではないのですよ。というか、トルミスの曲はそこまでキャラクターを変えることが要求されるという、深いものなのでしょう。おそらく楽譜を見ただけでは、そこまでの深さを表現することはなかなか難しいはずです。それは、ある意味音楽的なスキルだけでは解決の出来ない、「血」までも関わってくるものなのかもしれませんね。
そんな民族的な素養が端的に表れているのが、「リズム感」なのかもしれません。おそらく日本の合唱団が歌ったら、さぞかし鈍くさいものになるのでは、というリズムをさりげなくこなして、なんとも楽しげなグルーヴを産み出しているのは、さすがです。
そんなすべての要素を詰め込んだ感のある「Peoples' Friendship Rhapsody」という長大な曲は圧巻です。エストニアから始まって、ロシア、モルドヴァ、アゼルバイジャン、カザフなど、まさに「民族のるつぼ」を音楽で表現、こんなことはこの男声合唱でなければ出来ません。ひとしきり「ロシア」で盛り上がったあとで訪れる静寂、そして最後には「エストニア」がストンと戻って来るんですよ。なんというかっこよさでしょう。

CD Artwork © Alba Records Oy
by jurassic_oyaji | 2010-04-03 22:22 | 合唱 | Comments(0)