おやぢの部屋2
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FANTASY A Night at the Opera
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Emmanuel Pahud(Fl)
Juliette Hurel(Fl)
Yannick Nézet-Séguin/
Rotterdam Philharmonic Orchestra
EMI/4 57814 2




パユ様のニューアルバム、もしかしたらこのジャケットを見ただけで、モーツァルトの「魔笛」が連想されるかもしれませんね。そう、フルートを持ったパユ様の背景は、あの有名なカール・フリードリヒ・シンケルが制作した「魔笛」の舞台デザインなのですね。夜の女王が現れるシーンで用いられたものですが、ブックレットの裏では、その夜の女王の姿が入っている現物を見ることができます。
そんな、まるでオペラを見に行ったような思いを味わえる、オペラのハイライトのような曲が、パユ様の華麗なテクニックで披露されているのでは、と、このジャケットを見た人は思ってしまうことでしょう。それは必ずしも間違ったことではありませんが、もしかしたらそういう意味では少なからぬ失望感を味わうこともあるかもしれません。
というのも、ここでパユ様が取り上げている曲は、19世紀に盛んに作られたフルーティストの名人芸を最大限に披露することが目的のものだからなのです(そういう名人は、ゲイだったりします)。ふつうはピアノ伴奏によって演奏され、フルーティストのリサイタルには欠かせないレパートリーになっているそんな華やかな曲たちを、ここではオーケストラ伴奏に編曲してお届けする、といった趣旨なのですね。もちろん、フルート愛好家、およびパユ様の熱烈なファンにとっては、こんな素晴らしい贈り物はないのでしょうが、たとえばオペラ愛好家の人がジャケットやタイトルにつられて聴いてみたら、おそらく彼(彼女)は「だまされた」と思ってしまうことでしょう。
有名なドップラー兄弟が2本のフルートのために作った「リゴレット・ファンタジー」などは、そんな、最も「失望度」の高いものかもしれません。確かにヴェルディの「リゴレット」で歌われるナンバーのメロディは見え隠れするものの、それがドップラー達の手にかかるとそこからはヴェルディのオペラの世界はきれいさっぱり消え去り、ひたすら彼らが腕によりをかけて作り上げた華やかな超絶技巧が眼前に繰り広げられることになります。それにしても、ここでパユ様と共演している、ロッテルダム・フィルの首席フルーティスト、ジュリエット・ユレルは、何と巧みにパユの芸風に寄り添っていることでしょう。並のフルーティストにはなかなか近づけないはずの、彼独特の表現を、彼女は見事になぞっています。
ジャケットがらみで、「魔笛」の、こちらはソロ・フルートとオーケストラのための「ファンタジー」を作ったのは、20世紀生まれのロバート・ホッブスという人です。とは言っても、そのスタイルはまさに19世紀的な語法ですから、心配することはありません。この曲は、かつてグローウェルズもとり挙げていましたが、しっかり序曲から始まって、第2幕のフィナーレで大団円を迎えるという、あたかもオペラ全曲を聴いた気になるような構成をとってくれていますよ。しかし、13分やそこらでこのオペラを全部聴かせるのはもちろん無理な話ですから、気持ちだけ、ですがね。それにしても、この脈絡のない曲の配列には、オペラを知っている人の方が逆に戸惑ってしまうかもしれません。
そんな中で、ポール・タファネルが作った「魔弾の射手ファンタジー」(念のため、ここまでに出てきた「ファンタジー」という言葉は、このような技巧的な作品のタイトルとして使われるものです)は、オーケストラに編曲されたことによって、今までピアノ伴奏で聴いたときには決して感じることの出来なかった、「ドイツの暗い森」のイメージがわいてくる様を体験できてしまいました。タファネルには、ドップラーほど自身の個性を発揮する能力はなかったからなのでしょうか。あるいは、ウェーバーの音楽にはヴェルディやモーツァルトほどは、他で使い回しがきくだけの融通性がないせいなのでしょうか。それって、もしかしたらかなり名誉なことなのかも。

CD Artwork © EMI Records Ltd.
by jurassic_oyaji | 2010-04-13 22:09 | フルート | Comments(0)