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The History of European Choral Music
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Eric Ericson/
Rundfunkchor Stockholm
Stockholmer Kammerchor
TOWER RECORDS/QIAG-50055/60




もはや入手が極めて難しくなってしまった音源の復刻に熱心に取り組んでいるタワー・レコードが、またしてもなんとも懐かしいアイテムを出してくれました。「合唱の神様」として広く知られていた(いや、まだご存命のはずですが)1913年生まれの合唱指揮者、エリック・エリクソンが、1968年から1975年にかけて手兵ストックホルム放送合唱団とストックホルム室内合唱団による演奏をEMIに録音したものです。元々はドイツのEMIである「ELECTROLA」によるローカルなプロダクションで、16世紀のタリスに始まって、その当時の「現代」であった20世紀の作曲家に至るまでの「5世紀」の合唱曲を網羅したという、壮大なアンソロジーです。もっとも、最も「若い」作曲家が1933年生まれのペンデレツキだったという、そんな時代の録音なのですが。
元々は何枚組のLPだったのかはわかりませんが、当時の東芝EMIから1972年に「芸術祭参加」として国内盤が出たときには、まだ全部の録音は終わってはいなくて、その中のドビュッシー以降の曲だけが3枚にまとめられて、譜例なども付いた超豪華ボックスとして発売されました。日本語タイトルは「20世紀のヨーロッパ合唱音楽」。ジャケットには「ヨーロッパ」がありませんが。
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今回のCDのジャケットデザインは、その時の布張りのボックスのテクスチャーを再現したものなのでしょう。国内盤はそれっきり、残りの曲が発売されることはありませんでしたが、輸入盤では1994年に3枚組のCDボックスが2セット、それぞれ「Europäische Chormusik auf fünf Jahrhunderten」と「Virtuose Chormusik」というタイトルですべての曲がCD化されています。今回の復刻盤も、同じマスターによるものなのでしょう、そのヨーロッパ盤と同じコンピレーションになっています。
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今回改めてそのラインナップを見渡してみると、エリクソンがレパートリーにしていた曲の幅広さには驚かされます。なんたって「5世紀」というスパンの作品が集められているのですからね。今のように、必ずしも「参考音源」が豊富に出回ってはいなかった時代ですから、当時の合唱関係者は、この録音をまさに「規範」として、練習に励んだことでしょう。事実、ドビュッシーの「シャルル・ドルレアンの3つの歌」やラヴェルの「3つの歌」などは、まさに理想的な演奏として、恰好の「お手本」になっていたはずです。
ただ、ラルス・エドルンド、ゴフレード・ペトラッシ、イルデブランド・ピッツェッティ、ラルス・ヨハン・ヴェルレなどという、現在ではほとんど顧みられない作曲家の作品が含まれているのが、なんとも「時代」を感じさせられるものではあります。
同じように、ここで聴かれるエリクソンのスタイルにもそんな「時代」の陰はつきまといます。おそらく、当時彼が合唱に求めたスタイルというものは、ロマン派近辺の音楽では充分にその格調の高さを誇ることが出来るものなのでしょう。しかし、もっと「古い」、あるいは「新しい」音楽に対しては、なんとも鈍重な印象を与えられてしまうのですよ。例えば、タリスの40声部のモテット「Spem in alium」は、昨今のスマートな演奏を聞き慣れた耳には、まさに野暮ったいものでしかありません。なんと言っても、それぞれのパートの声が、あらゆる意味で重すぎて、声部間の風通しがとても悪くなってしまっているのですね。
そして、「新しい」ほうでも、リゲティの「Lux aeterna」などでは、その粘着質の声には辟易とさせられます。そこからは、この曲にはぜひあって欲しい万華鏡のような輝きなどは、望むべくもありません。
合唱団自体が、この頃とは比較にならないほどの透明なソノリテを獲得しているのと同時に、エリクソンを軽く超えるだけの「神様」が世界中にうじゃうじゃいるようになったのが、今の世の中なのではないでしょうか。今や世界の合唱は、当時の水準をはるかにしのぐ高みに達していることを、この貴重な復刻盤は教えてくれています。

CD Artwork © EMI Records Ltd.
by jurassic_oyaji | 2010-05-20 20:34 | 合唱 | Comments(0)