おやぢの部屋2
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MARTIN/Golgotha
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Judith Gauthier(Sop), Marianne Beate Kielland(Alt)
Adeian Thompson(Ten), Mattijs van de Woerd(Bar),
Konstantin Wolff(Bas)
Daniel Reuss/
Capella Amsterdam, Estonian Philharmonic Chamber Choir
Estonian National Symphony Orchestra
HARMONIA MUNDI/HMC 902056.57




かつてRIAS室内合唱団の音楽監督(2003年から2006年)だったダニエル・ロイスが、ポール・ヒリアーの後任としてエストニア・フィル室内合唱団の音楽監督に就任したのは、2008年のことでした。彼が1990年から指揮者を務めているオランダの合唱団、カペラ・アムステルダムとの録音は、最近こちらで聴くことが出来て、その素晴らしさを存分に味わったところでしたが、「エストニア」との演奏はなかなか聴く機会がなかったところに、なんと、「アムステルダム」と「エストニア」とを同時に指揮しているという、こんなアルバムが出たではありませんか。おそらく、現在では世界最高の水準を誇っているはずの2つの混声合唱団の共演、これは聴き逃せません。
演奏しているのは、フランク・マルタンのオラトリオ「ゴルゴタ」です。もちろん、その名の通りゴルゴタの丘で十字架に架けられたキリストの「受難」を描いた作品、決して日本の政治を描いたものではありません(それは「ゴタゴタ」)。
曲の構成としては、あのバッハが作った「受難曲」のような形がとられています。サブタイトルに「福音書と聖アウグスティンのテキストによるオラトリオ」とあるとおり、お話はマタイ、ヨハネ、ルカなどの福音書にしたがって進み、その間に5世紀ごろの聖人アウグスティンによる「瞑想」や「懺悔」からの美しいテキストが、バッハで言えばピカンダーによる歌詞のように扱われています。全体は2つの部分に分かれていて、演奏時間は1時間半ほど、作曲家自身もバッハを大いに意識したそうで、バッハの作品に馴染みがありさえすれば、ごくすんなり入っていける世界です。
それは、最初の合唱ですぐに気づかされます。テキストはフランス語ですが、その「Père! Père!」という呼びかけは、まさにバッハの「ヨハネ受難曲」の冒頭の合唱「Herr!」を思い起こさせるものでした。続く聖書朗読の部分は、一人で歌うエヴァンゲリストがいるのではなく、その時に応じてさまざまなソリストと、時には合唱が担当しています。しかし、イエス役はバリトンのソリストが固定されています。
音楽は、決して煽り立てることのない淡々とした語り口の中で、マルタン特有の深みのあるハーモニーに彩られて進んでいきます。「アリア」というほどのメロディアスなナンバーがない中で、第2部の最初の曲は、アルトのソロと合唱の掛け合いによって、ドラマティックな世界が広がります。アルトのキーランドという人の、芯の通った澄みきった音色は、とても素敵です。そういえば、他のソリスト達も、テノールがややクサ過ぎるのを除けば、しっとりとした歌い方に徹していて、それは合唱の透明な響きに見事に溶け合っています。さらに、オーケストラも、特に弦楽器の落ち着いた響きはとても魅力的です。
そんな精緻な響きをたたえて現代に蘇った「受難曲」は、深い感動を与えてくれるものでした。そもそも、この曲は委嘱を受けて作られたものではなく、なんでも、1945年にこのジャケットにも使われているレンブラントの「3つの十字架」という銅版画を見たことが、作曲の直接の動機となったのだそうですね。それは、マルタン自身の悲惨な戦争体験を宗教的なメッセージと重ね合わせるというものでした。曲が完成したのは、それから3年後の1948年、その翌年にはジュネーヴで初演されますが、彼自身は当初は公開の場で演奏することは考えてはいなかったそうなのですね。それほどの深い思いを受け止めるだけのものが、このアルバムの中には確かに息づいています。
それを余すところなく伝えたテルデックス・スタジオによる録音も、素晴らしいものです。これがSACDであったなら、と思える瞬間がしばしばあったのも、決してエンジニアの責任ではありません。

CD Artwork © Harmonia Mundi s.a.
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by jurassic_oyaji | 2010-06-05 19:52 | 合唱 | Comments(0)