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BRUCKNER/Symphony No.4(3rd version)
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Osmo Vänskä/
Minnesota Orchestra
BIS/SACD-1746(hybrid SACD)




ご存じのように、ブルックナーの交響曲の中で最も演奏頻度の高い「4番」には、3種類の異なる「稿」が存在しています。1874年の「第1稿」、1878年から1880年にかけての「第2稿」、そして、1888年に作られた「第3稿」です。その中で、「第3稿」というのは、「ブルックナーの弟子によって改竄されたもの」という評価が一般的で、昨今では、まず演奏されることはありませんでした。
ところが、ごく最近になって、「第3稿」に関する見解が今までとはガラリと変わってしまうような事態が勃発します。2004年に、国際ブルックナー協会の全集版(いわゆる「ノヴァーク版」)として、この「第3稿」が出版されたのです。つまり、今までは「改竄版」という扱いで全集からは無視されていたものが、他の稿と同じ「原典版」として出自の正しいものであることが認められたのですね。出版にあたって楽譜の校訂を行ったのは、ベンジャミン・コースヴェットというアメリカの音楽学者、したがって、この楽譜は「レーヴェ版」とも呼ばれていた従来の「第3稿」(そもそも、1889年に最初に出版された楽譜。かつてはハンス・レートリッヒによる校訂版がオイレンブルクから出ていましたが、今では「第2稿」に変わっています)と区別するために「コースヴェット版」と呼ばれています。これからはこうすべえ、ということですか。
かつては弟子のフェルディナント・レーヴェが、「第2稿」のままではとても出版は出来ないということで、より一般受けするようにワーグナー風のサウンドに半ば独断で改訂を行い、ブルックナーはそれを認めてはいなかった(楽譜にサインをしていない)という認識が強かったこの「第3稿」なのですが、コースヴェットの研究によればそのようなことでは決してなく、作曲家と弟子とによる共同作業の結果出来上がった、まさに作曲家の最終的な意思が反映されているものであることが明らかになったということなのです。
これは、今まで日陰者の身だったものが、いきなり表舞台に引きずり出された、というような事態なのでしょうね。本当かなあ、という気はするのですが、まあなんせ国際ブルックナー協会のお墨付きを得られたのですから、まちがいはないのでしょう。そして、これからは「第3稿」は、他の2つの「稿」と同等に演奏家の選択肢の一つとなっていくことでしょう。
もっとも、現時点ではこの楽譜による演奏は、2005年の内藤盤と、そして、最新の2009年1月に録音された、このヴァンスカ盤しかありません(ヴァンスカは、2008年の11月にも、別の小さなレーベルに録音を行っています)。内藤盤は日本国内のマイナー・レーベルですので、ワールドワイドにコースヴェット版の録音が聴かれるのは、これが最初のものとなるのでしょう。
この新生「第3稿」、いかにまっとうなものに待遇が変わったといっても、やはり今までのレーヴェ版で味わってきたおどろおどろしいイメージは、変わることはありません。ピッコロやシンバルが加わったド派手なフィナーレに慣れるには、しばらく時間がかかることでしょう。何よりも、第3楽章のスケルツォが、1回目と2回目では違った形になっているというのが、とても違和感があるところです。1回目は、何とトリオに向かってディミヌエンドしていくんですよね。こんなブルックナーらしくない「配慮」には、戸惑いを禁じ得ません。そして、2回目は途中で70小節近くカットしたあとで、このディミヌエンドもスルーして別のコーダに入り、元気に終わる、というわけです。
かつてこの曲(もちろん「第2稿」)を演奏したさる長老指揮者が、このスケルツォの最後で、まだ1回目だと勘違いしてオケは終わっているのにまだ指揮を続けていたという醜態を演じたことがありましたが、コースヴェット版がもっと早く世の中に出ていれば、そんな恥をかかなくても済んだでしょうに。

SACD Artwork © BIS Records AB
by jurassic_oyaji | 2010-06-16 21:10 | オーケストラ | Comments(0)