おやぢの部屋2
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Roots: My Life, My Song
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Jessye Norman(Sop)
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ジェシー・ノーマンと言えば、オペラやリートの分野で圧倒的な表現力を武器に様々の名演を繰り広げていた、不世出のソプラノ歌手です。「ソプラノ」とは言っても、その声はなめらかに低音にまで深い響きがつながり、「メゾ」あるいは「アルト」でも十分通用する、驚異的な音域を誇っています。かつてマゼールの指揮で録音されたマーラーの交響曲第2番(SONY)での「原光」のソロで受けた衝撃、その地を這うような音色は、今でも忘れられまぜーる
最近ではほとんどそのようなジャンルからは引退しているのでしょうか。オペラを歌ったという話は伝わってきませんし、CDのリリースもとんと聞かなくなりました。彼女は今年の誕生日が来れば65才、まだまだ立派に通用する年齢なのでしょうが、確かに「引き際」を考えてもおかしくないような微妙なお年頃ではあります。かつての輝きに満ちたフル・ヴォイスが衰えてしまうのを聴くのは、ファンにとってもつらいことにはちがいありません。
そんなノーマンの最新アルバムは、2009年にベルリンのフィルハーモニーで行われた彼女のソロ・リサイタルのライブ録音です。ただ、そんな録音データは、このパッケージにはどこを探しても記載されていません。しかも、ここには収録されていないはずのミュンヘンやフランクフルトのコンサートでの録音スタッフなどという余計なものが入っているのですから、なんともいい加減な話です。
それはともかく、この2枚組のCDでは、4部構成の彼女のコンサートがすべて味わえます。その第1部は、コンサートのタイトルである「ルーツ」を端的にあらわしている、アフリカのドラムから始まります。有名なスピリチュアルズを、時にはコントラバス1本だけの伴奏で歌ったりしていますが、それは、なかなか小気味よいアレンジです。さらに、彼女の声を最大限に生かすような、朗々たるゴスペル・テイストのものも聴き応えがあります。このコーナーの最後が、なんとバーンスタインの「ウェストサイド・ストーリー」からの「Somewhere」にソウルフルに迫る、というものですから、すごいですよ。当然のことですが、アレンジャーのクレジットはありません。
次のコーナーがかなりの曲者です。タイトルが「The 'A' List」というのですが、ここではニーナ・シモン、リナ・ホーン、エラ・フィッツジェラルド、そしてオデッタという、名前の最後に「A」という文字を持つ黒人女性ヴォーカリストのレパートリーをカバーする、というコンセプトで演奏しています。しかし、それは単なる「カバー」などという生易しいものではなく、それを歌っていた人までをも「カバー」しようという、とてつもないものだったのです。ノーマンの敬愛するそれらのアーティストに、ほとんど「なりきった」歌い方は、オペラであれほどの表現力を見せつけていた彼女にしてはいともたやすいものなのでしょうが、それが、たとえばリナ・ホーンの微妙に暗い音程までをも正確に再現しているのを聴くと、改めて驚かずにはいられません。なんといっても圧巻は、最後に3曲も歌っているオデッタでしょうね。ここでは、「元ネタ」の持つポリティカルなメッセージが、ノーマンの強靭な歌声でさらに増幅されて伝わってきます。
3番目のパートは「フレンチ・コネクション」というタイトルで、プーランクが作ったシャンソンからスタンダード・ナンバー、そして、なんとビゼーの「カルメン」の最も有名なナンバーが歌われています。その「ハバネラ」が、オペラ歌手によって、全くクラシックとはかけ離れた発声で、ボサノバっぽい軽妙なリズムに乗って歌われるのですから、これほど痛快なこともありません。
最後のコーナーは、もうほとんど「ジャズ歌手」のノリで、エリントン・ナンバーなどが歌われます。こんな楽しいことをしながら過ごせる「老後」なんて、なんとうらやましいことでしょう。

CD Artwork © Sony Music Entertainment
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by jurassic_oyaji | 2010-06-21 20:55 | ポップス | Comments(0)