おやぢの部屋2
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新版 古楽のすすめ
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金澤正剛著
音楽の友社刊

ISBN978-4-276-37105-7



前回「ア・カペラ」の本当の意味、などということを書いたら、なんと、そのお墨付きみたいなことが書かれてある本が出たばかりでした。世の中、狭いものです(ちょっと意味が違う?)。それは、1996年に刊行された金澤正剛さんの名著「古楽のすすめ」の新装版です。お相撲さん向けの本ではありません(それは「賭博のすすめ」)。その中で、この「ア・カペラ」に用いられている「カペラ(=教会、礼拝堂)」という言葉は、一般名詞ではなく、ヴァティカンのシスティナ礼拝堂という特定の場所を示す言葉であったことを知らされるのです。そこでは、一切の楽器演奏は許されなかったのだそうですね。まさに「目から鱗」とはこんなことを言うのでしょう。
その他にも、「シャープとフラット」、あるいは「ナチュラル」の起源についても、今まで漠然と分かっていたつもりのものがいとも理路整然とまとめられているのには、感動すら覚えます(ここで著者は「シャープさん・フラットさん」という往年のクイズ番組を引き合いに出していますが、これは「曲名当てクイズ」で、ここに書かれているようなものとはちょっと違います。スタジオで、原形をとどめないほどに編曲された曲が演奏されたりして、それを早く当てたほうが勝ち)。同様に、教会旋法についての説明も、なんと分かりやすいことでしょう。そう、この本は、そのような「いまさら聞けない」コアな疑問に対する極めてすぐれた「解説書」として、座右に備えておきたいものとなっています。
おそらく、最初にこの本が出たときに最も衝撃として感じられたのは、楽譜の成り立ちや、演奏法に関する記述ではなかったでしょうか。楽譜とは、単に音楽を書きとめるための手段に過ぎないものであるという、今となってはほとんど常識と化した概念も、当時としては、まさに画期的な見解だったはずです。とは言っても、今ではアマチュアの合唱団のメンバーでも「ムジカ・フィクタ」(楽譜には書かれていないシャープやフラットを、慣習に従って付けること)を知らない人はいませんし、「ノート・イネガル」(記譜上は均等なリズムであっても、不均等に演奏すること)あたりは、この時代の曲を演奏しようとする人なら誰しもが知っていなければならない基本知識となっています。
そのように、最近の「古楽」をめぐる状況はまさに日進月歩ですから、15年近くも経てば、もはやその内容は「古く」なってしまいます。そもそも、オリジナルの原稿自体が、もっと「昔」、1980年代にフリーペーパーに連載されたものなのですから、もはやそこに書かれていたことなどは何の意味も持たないほどのものになっている可能性もありますしね。ですから、今回の改訂によって、最新の研究成果が反映された「今」に通用するようなものに生まれ変わっているのでは、という期待を持っても構わないはずです。
さらに、この本の原稿が書き始められたころと、現代とを比べると、その間には演奏面に於いても劇的な変化がありました。それは、単に「古楽」の世界にとどまらない、広範なものだったはずです。ですから、黎明期から現代までを一貫して的確な審美眼をもって見てきた人であれば、必ずやわくわくするような語り口でそのあたりを述べてくれていることでしょう。
しかし、そんな期待に反して、実際にはそれほどの画期的な書き直しがあったような形跡はほとんど見られなかったのには、ちょっと失望させられてしまいました。いや、そもそも「ancient music」の訳語である「古楽」という日本語自体が、今では、例えば「奏鳴曲@sonata」や、「遁走曲@fugue」のように、もはや「古い」概念になってしまっている現実を受け入れず、依然としてタイトルに掲げている時点で、すでに著者にはそのような志はないことに、気付くべきだったのかもしれません。

Book Artwork © Ongakunotomo-Sha
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by jurassic_oyaji | 2010-06-25 23:42 | 書籍 | Comments(2)
Commented at 2010-06-26 15:23 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by jurassic_oyaji at 2010-06-26 17:21
Stellaceliさま。
「禁断」へのコメント、ありがとうございました。詳細は、直接メールでお送りします。