おやぢの部屋2
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BEETHOVEN/Symphonie Nr.9
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edited by Peter Hauschild
Breitkopf/PB 5349(study score)




通常、オーケストラの団員というものは、昔から使っている、書き込みがいっぱい入ったパート譜をありがたがっていて、最近の「原典版」などには強い拒否反応を示すものです。
そんな状況が一変したのは、ベーレンライター社が、ジョナサン・デル・マーの校訂によるベートーヴェンの交響曲の原典版を出版したことによります。折からのアーリー・ミュージックの隆盛でベートーヴェンあたりの音楽も作られた当時の演奏形態の再現が試みられるという動きが高まる中、楽譜自体も作曲家が意図した通りのものを使いたいという機運が高まっていたのでしょうね。さらに、おそらく何らかのタイアップの動きもあったのでしょう、大々的に「ベーレンライター版を使用」と謳ったCDも多くの演奏家によって発表され(中には、どこが?というようなものもありましたが)、この楽譜は多くのオーケストラのライブラリーとして採用されることになったのです。
通常、こういう楽譜は指揮者用の大型楽譜とパート譜が一緒になって販売されています。実際の演奏にはあまり用いられない「ポケット・スコア」は、かなり時間が経たないと発売されないものなのですが、ベーレンライター版の場合は大型スコアが出揃うやいなや、ポケット・スコアも一斉に発売されたというのも、その「人気」のほどを表しているのではないでしょうか。決して安くない大型スコアを全曲買ってしまった直後に、はるかに安価なポケット・スコアが出たのを、複雑な思いで眺めていた人は少なくなかったはずです。
そんな商売敵の躍進ぶりを、ブライトコプフが指をくわえて見ているわけはありません。いや、この出版社は、かなり以前から「原典版」に対しては積極的な態度を示し始めていましたから、ベートーヴェンでもそのような「ちゃんとした」楽譜を出そうとしたのは、当然の成り行きだったのでしょう。かつて東独で「ペータース版」の編纂に携わっていたペーター・ハウシルトなどを迎えて、ブライトコプフ独自の「原典版」を完成させました。その最後の成果が、2005年に出版されたこの「第9」の大型スコアです。
ベーレンライターの轍は踏むまいという思いの甲斐あって、ごく最近、こんなポケット・スコアが日本の楽器店の店頭にも並ぶようになりました。さっそくゲット、いろいろ比較しているところです。
原典版の常で、校訂者の判断がその楽譜に大きく反映された結果、同じ資料を基にしていながらこれはベーレンライター版とはかなり異なった楽譜となっています。というより、ベーレンライター版は、やはりかなり大胆な解釈をとっていたことが良く分かります。ハウシルトの仕事は、基本的にかつてのブライトコプフ版がとっていたスタンスを受け継ぐものでした。ただし、注目すべき点もいくつかあります。その最大のものは、第4楽章の330小節目、「vor Gott」のフェルマータの部分でのダイナミックスです。
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かつてのブライトコプフ版には、ティンパニにだけディミヌエンドが付いていました。ベーレンライター版ではそれがなくなって、全パートがフォルテシモで伸ばし続けるようになったのですが、この新しいブライトコプフ版では、なんとオーケストラ全体にディミヌエンドがかけられていますよ。それをしないのは合唱だけ、この表現は、おそらくハウシルト版を使って演奏されたと思われるマズアとライプツィヒ・ゲヴァントハウスの演奏(1990-1991/PHILIPS:録音スタッフは東独のDS)と見事に合致しています。オーケストラが徐々に消えていって、最後にア・カペラの合唱だけが残るのですね。
ただ、ベーレンライター版で最も前衛的だと思われた、同じ楽章のマーチから続くオーケストラだけの部分の最後、合唱を導き出すホルンの不規則なシンコペーションは採用されているのが、面白いところです(マズア盤ではやってませんが)。
いずれにしても、これで、昔のブライトコプフ版は紙コップほどの価値もないものとなりました。

Score Artwork © Breitkopf & Härtel
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by jurassic_oyaji | 2010-07-07 20:55 | 書籍 | Comments(0)