おやぢの部屋2
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BACH/Matthäus-Passion(Sung in English)
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Grace Davidson (Sop), Mark Chambers (CT)
Jeremy Budd (Ten, Ev), Eamonn Dougan(Bas, Jes)
Jeffrey Skidmore/
Ex Cathedra Choir & Baroque Orchestra
ORCHID/ORC 100007




タイトルにあるように、「英語によって歌われた」マタイ受難曲です。実は、英語圏ではそのような演奏は決して珍しいものではなく、例えば以前ご紹介したウィルコックス盤などもCDとして存在しています。この、1978年に録音された(ちなみに、今回のアルバムのライナーノーツでは「1979年」となっていますが、それは間違いです)DECCA盤では、1911年に作られた「エドワード・エルガー版」を用いて演奏されています。実は、今回のジェフリー・スキッドモアによって1969年に創設された「エクス・カセドラ」という、水木しげるの大好物(それは「カステラ」)のような名前の合唱団も、かつては同じ「エルガー版」で、英語の「マタイ」を演奏していたのだそうです。しかし、今回の演奏では、ニコラス・フィッシャーとジョン・ラッセルという人たちによって新たに訳されたテキストによって歌っています。それは、より現代人の感覚にフィットする歌詞によって演奏するという試みだったのでしょう。
実際に「エルガー版」と「フィッシャー・ラッセル版」の歌詞を比べてみましょうか。例えば最初の合唱の冒頭。

「エ」:Come, ye daughters, share my mourning
「フィ・ラ」:Come, you daughters, share my mourning

さらに、エヴァンゲリストの第1声
「エ」:When Jesus had completed all these sayings, he said unto his desciples
「フィ・ラ」:When Jesus had finished saying these things, he said to his disciples

ye」とか「unto」なんて、ヘンデルのオラトリオにでも出てきそうな単語ですね。最初のフレーズは、言ってみればかつては「娘たちよ、来るのじゃ」だったものを、「ねえちゃん、おいで」(笑)と訳したようなものなのでしょうね。余談ですが、テレビなどではよく老人が使っている「~じゃ」という言い方を実際に使っている人に、未だかつてお目にかかったことがありません。
そのような歌詞に対する感覚は、エルガー版によるウィルコックスの演奏が18855秒かかっていたものが、15743秒にまで短縮されるような昨今のこの曲に対するアプローチとも、おそらく無関係ではないはずです。しかし、そのようなテンポアップの主たる原因が何世紀も前の演奏様式の再現だというのに、歌詞だけを「現代風」にするというのもなんだかなぁ、という気がしないでもありませんね。
ただ、残念なことに、そのような「新しい」歌詞になったことによる変化というものは、我々普通の日本人にはまず認識するのは不可能なことです。それよりも、慣れ親しんだドイツ語ではないことに対する違和感の方がよっぽど重要な意味を持ってくるのではないでしょうか。これは、あくまで英語を母国語とする人たちが味わうべき演奏なのでしょうね。なんだか、蚊帳の外に置かれて悔しくないですか?いっそのこと、日本語による「マタイ」なんて、誰か演奏してくれないでしょうかね。
これは、バーミンガムのシンフォニー・ホールという、バーミンガム市交響楽団の本拠地として知られる収容人員2,200人の大ホールで行われたコンサートです。しかし、演奏自体はそんな広い空間に惑わされることのないコンパクトな仕上がりになっています。演奏の精度も、ライブならではの傷は少なからずあるものの、先日のマルゴワールに比べたら格段のものがあります。
このコンサートが行われたのは、2009年4月10日、その年の「聖金曜日」つまり、キリストが十字架に架けられた日という、キリスト教徒にとってはとても重要な記念日(?)です。その日に、自分たちの最も共感できる言語で受難の歌を歌った合唱団のメンバーは、きっと何か特別な思いを抱いていたはずです。その思いはホールを埋め尽くした聴衆にも伝わり、最後の盛大な拍手を生んだのでしょう。教会での礼拝ならいざ知らず、コンサートホールなのですから、そんな不作法も許してあげましょうね。

CD Artwork © Orchid Music Limited
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by jurassic_oyaji | 2010-07-17 20:38 | 歌曲 | Comments(0)