おやぢの部屋2
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WHITACRE/Choral Music
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Leslie De'Ath(Pf)
Carol Bauman(Perc)
Noel Edison/
Elora Festival Singers
NAXOS/8.559677




こちらは、アメリカの、というよりは国際的に超売れっ子の合唱作曲家(と言いきっていいのでしょうか)エリック・ウィテカーの作品集です。以前、レイトン指揮のポリフォニーによる演奏をご紹介したことがありますが、今回のラインナップは11曲中8曲がその時のものと同じ無伴奏の作品で占められています。そうなると、それぞれの演奏を比較してしまうことになるのは当然の成り行きです。
それにしても、このエローラ・フェステヴァル・シンガーズというカナダの合唱団と、前に聴いたポリフォニーというイギリスの合唱団では、同じ曲であってもなんという肌触りの違いなのでしょう。そもそも、合唱団の音楽の作り方の方向性が、その元になる声の出し方からしてまるで違っています。あちらはなによりも力強い充実した響きが身上で、そこに指揮者の趣味が加わってとてつもないハイテンションの音楽を作り上げているのですが、こちらはもう少しリラックスした、繊細さを重視したものになっています。音色を左右するソプラノパートでは見事にノン・ビブラートが貫かれていて、大人の合唱団なのにまるで少年のようなイノセンスを醸し出しているのが、その最大の要因なのでしょう。それでいて、要所の盛り上げ方は充分にドラマティックなのですから、目を見張ります。
そんな合唱団でウィテカーの曲を聴いていると、この作曲家の技法そのものすら、全く別の属性を持っていることに気づかされます。今まではほとんどクラスターと思えるほどの、「和音」というには余りにも音が密集し過ぎていると思っていたものは、実はもう少しそれぞれの構成音に意味のあるきっちりした「和音」である、というようなことですね。したがって、以前は厚ぼったく塗りたくった油絵のように思えていたものが、まるでパステルカラーの水彩画のように見えてくるようなことも体験されてしまいます。ジャケットにも水彩画が使われていますし。まあ、これが「インタープリテーション」というものの面白さなのでしょうね。
実際、「Her sacred spirit soars」という曲では、レイトンが5分で演奏していたものを、エディソンでは6分半もかかっています。こうなると、もう全く別の曲のように思えてしまいますね。「Water Night」という曲などは、あまりにあっさりしすぎるため、完璧に「ヒーリング」と化してしまっていますし。
レイトン盤と重なっていない3曲は、無伴奏ではなくピアノや打楽器が加わったものです。そこで見られるのはなんとも独創的なピアノ伴奏のスタイルです。「伴奏」というような従属的なものではなく、新たなパートとして合唱に絡みついてくるのですね。これも、彼ならではの「ポリフォニー」の形なのでしょう。いや、それは、あるいは「ミニマル」と言うべきものなのかもしれませんね。
打楽器が加わった「Leonrdo Dreams of His Flying Machine」という曲は、まるでモンテヴェルディあたりのマドリガルを模倣したような印象を与えられます。実際、歌詞の中にはイタリア語の部分もあり、それは完璧にルネサンスの世界です。ところが、途中でそれまでの三和音から次第にテンション・コードが混ざってきて、ついにはクラスターとなると、それを境に打楽器がなんとラテン・リズムを叩き始めます。そんな変わり身の速さに即座に反応して、機敏に音楽を進めていけるフットワークの軽さも、この合唱団の持ち味なのでしょう。
このCDによって、一つの団体の演奏だけを聴いていたのでは分からなかった、この作曲家の多様性を、発見させてもらったような思いです。そういえば、この中で最も長大な「When David Heard」でも、言葉に対する感覚がまるで異なっていることをまざまざと見せつけてくれていましたね「もっと聴かせてちょうだい」と言いたくなるような、すてきなCDでした。

CD Artwork © Naxos Rights International Ltd.
by jurassic_oyaji | 2010-09-23 23:11 | 合唱 | Comments(0)