おやぢの部屋2
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The Sibelius Edition
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V.A.
BIS/CD-1930/32




シベリウスの没後50周年という記念の年であった2007年からスタートしたBISによる「シベリウス全集」も滞りなくリリースが続き、このたび全13巻のうちの11巻目にあたる「合唱曲」が発売となりました。シベリウスの全作品を、断片や異稿までも含めてすべて「音」にしようというこのプロジェクトも、あとは「交響曲」と、「その他」を残すだけとなります。ただ、これがシベリウスの祖国フィンランドではなく、お隣のスウェーデンのレーベルによる仕事というのが皮肉なところですね。確かに、今のフィンランドには、これだけのことを成し遂げる力を持ったレーベルは存在していません。かつてはフィンランドを代表するレーベルだったFINLANDIAは、WARNERの傘下に入ったと思ったら、いつの間にか消滅してしまいましたし、その後釜と期待されたONDINEは、なんとあのNAXOSの「ファミリー」になってしまいましたからね。先行きは不安です。
この全集は、それぞれの巻が厚さ3センチほどのしっかりとしたボックスに入っています。13巻をすべて揃えて棚に並べると、そこには見事に広大なフィンランドの湖の風景が広がる、というぜいたくなデザイン、これこそが、「物」としてのCDの醍醐味です。ネット配信では、絶対にこんなことはできませんって。
CDは、それぞれの巻に5枚から6枚ずつ入っているのですが、すべて「3枚分」の価格になっているあたりがお買い得感をそそります。確かに、6枚入りのこのボックスも、品番は「3枚分」しかありませんし。もっとも、それはこの「全集」がもっぱらすでにリリースされている音源を集めたものである、という事情も関係しているに違いありません。まあ、6枚のうちの3枚分ぐらいはすでに持っていても、この値段なら買ってもいいかな、と思わせるような「賢い」価格設定なのでしょう。
ボックスの中に入っているCDは、ただスリーブに入っただけの薄っぺらなものですが、その分ブックレットが分厚いものになって3センチの空間を埋め尽くしています。それだけの厚みを持っている訳は、中を開けば分かります。なんと、それは英語、フィンランド語、スウェーデン語、ドイツ語、フランス語、そして日本語という6カ国語のテキストによるものだったのですからね。あ、もちろん日本語はローマ字ではなくしっかり明朝体のフォントで印刷された「日本文」ですよ。ただし、その訳文は「日本語」には程遠い粗悪なものなのですが。
そんな粗悪さの一つの例が、おそらくこの6枚のCDに収められている中では最も有名な「合唱曲」、「フィンランディア」に関する解説です。もともとは1899年に作られた同名のオーケストラ曲で、当初はそれを合唱曲にすることは作曲者の念頭にはなかったのですが、後になって1938年に、その中のメロディアスな部分にヴァイノ・ソラという人の歌詞を付けた男声合唱曲を作ります。それを、1940年に、今度はヴェイッコ・アンテロ・コスケンニエミという人の、より「フィンランド」を意識した歌詞のものに改訂します(これも男声合唱)。さらに、1948年には男声版と同じ変イ長調と、もう一つヘ長調の2つの混声合唱バージョンがつくられます(歌詞はコスケンニエミ)。つまり、合唱曲としての「フィンランディア」には、全部で4種類のバージョンが存在していて、それらはすべてこのボックスに収められているのですが(なぜか、ヘ長調の混声バージョンが、半音高く歌われています)、この日本語訳では男声バージョン1、混声バージョン2の3つのバージョンが存在しているようにしか読み取れないのですね。
いずれにしても、そんな版の違いなどもすべて音で確認できますし、なによりも、これが世界初録音となる学生時代の習作が聴けるというのがたまりません。それぞれの作品にはさらにいくつかのバージョンがあり、若き日のシベリウスの推敲の跡までも体験できるのですから、サイコーです。

CD Artwork © BIS Records AB
by jurassic_oyaji | 2010-10-03 22:47 | 合唱 | Comments(0)