おやぢの部屋2
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BACH/Passio Secundum Johannem
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Julian Prégardien(Eva)
Benoît Arnould(Jes)
Benoît Haller/
La Chapelle Rhénane
ZIG ZAG/ZZT 100301.2




オペラ歌手としても活躍しているブノワ・アレが、2001年に創設、指揮者を務めている「ラ・シャペル・レーナン」という、教会のような名前(それは百恵ちゃんが結婚式を挙げた「霊南坂」?)のソリスト集団は、今までにK617レーベルにシュッツやブクステフーデを録音していました。この団体には専任のプロデュースからレコーディングまでこなせるスタッフがいて、そのフェルターという人はライナーに写真まで載っていますから、まさにメンバーの一人、という扱いなのでしょうね。ですから、今回のように別のレーベルからCDをリリースするときにも、演奏メンバーは余計な心配をすることはないのでしょう。まさに鮮烈としか言いようのない独特の主張を持った録音は、この団体が醸し出す刺激的なグルーヴを、見事に再現してくれています。
今回の「ヨハネ」で彼らがとった編成は、4声部の合唱が各パート2人という、リーズナブルなものでした。もちろん、それぞれのメンバーが交代でソロのアリアも担当します。ただ、テノールだけはエヴァンゲリスト専任でもう一人参加しています。その人は、ジュリアン・プレガルディエン、名前でお分かりのように、あのクリストフ・プレガルディエンの息子、弱冠26歳のイケメンです。いや、外観だけではなく、その歌もとても素晴らしい人です。変な癖のないとても澄み切った歌い方、それでいて説得力とドラマ性を存分に備えているという、まさに理想的なエヴァンゲリストです。
その他の人たちも、それぞれに力のあるところを見せつけてくれていますよ。その中で一番印象に残ったのは、9番のアリア「Ich folge dir gleichfalls」を歌っているソプラノのサロメ・アレ(指揮者の奥さんでしょうか)です。なにしろ、歌い方がとても自由奔放なのですよ。別に装飾を付けているわけではないのですが、とても不思議なテンポ感を持っていて、そう、ほとんど「演歌」のノリで思う存分にルバートをかけているのです。これが、なぜかとても生き生きとしたものに仕上がっているのですね。
そんな、一見個性的な人たちも、合唱のパートに入った時にはぴったりアンサンブルにハマります。それが、たとえば「磔」のシーンなどでは、とてつもなくドラマティックな表現を見せてくれるのですから、もう感服です。
この演奏は、もう一つの特徴を持っていました。それは、ところどころに「第2稿」でしか使われていない音楽を用いている、ということです。「ヨハネ」の場合の「稿」の問題は複雑を極めていて、いまだに真相は解明されていない部分もあるのですが、その一つの見解がこちらにあるので、まずそれを参照してみてください。このあたりの状況は、奇しくも前回ご紹介した磯山さんの著作ではまさに「見てきたように」綴られています。
ということで、アレがとったのは、この「5つ」の「稿」の中から、最も良いと思ったものをつなげるという、「いいとこどり」の手法でした。それを実際に検証してみると、基本的に新全集版(もちろん、付録ではなく本体)に忠実に演奏しているのですが、「第2稿」で変更のあった部分は、第1番の合唱を除いては「第2稿」のコンテンツに差し替えています。そして、最後のコラール(40番)も「第2稿」の「Christe, du Lamm Gottes」が歌われるのですが、そのあとにトラックはそのままで少し余白を入れてから、新全集の「Ach Herr, las dein lieb Engelein」が歌われています。
事実はこういうことなのですが、なぜか指揮者はライナーで、「オープニングの合唱だけは1724年稿(第1稿)だが、他の部分は1725年稿(第2稿)に相当するもの」と述べています。これが明らかな間違いであることは、先ほどの資料をご覧になれば容易に分かるはずです。たとえば、先ほどの第9番なども、ここで演奏されているのは新全集の「付録」にある「1725年稿(=1724年稿)」ではなく、「本体」で採用された「未完のスコア」の形なのですからね。

CD Artwork © Zig-Zag Territoires
by jurassic_oyaji | 2010-10-10 00:39 | 合唱 | Comments(0)