おやぢの部屋2
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Piccolo Virtuoso
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時任和夫(Pic)
藤田雅(Pf)
ENZO/EZCD-10011



アメリカの名門オーケストラ、フィラデルフィア管弦楽団で、首席ピッコロ奏者を29年にわたって務めている時任さんの、初めてのソロアルバムが出ました。時任さんと言えば、最近も「サイトウ・キネン・オーケストラ」のピッコロ奏者として日本の聴衆の前にも姿を現していましたね。もちろん、本来の「職場」での実績は、数多くの録音で多くの人が耳にしているはずです。
このアルバムの曲目を見て驚いたのは、彼のために作られた日本人作曲家の作品を除いては、すべて本来はピッコロ以外のために作られた曲ばかりが集められている、ということでした。その中には、なんとメシアンの「クロウタドリ(黒ツグミ)」などという、フルート以外の楽器で演奏することなど全く想定されてはいないようなものまで含まれていますよ。
まず、最初に聴こえて来たのが、日本では昔からフルートの学習用のピースとしてお馴染みの、テレマンのヘ短調のソナタです。それは、とてもピッコロで演奏されているとは信じられないほどの柔軟性あふれるものでした。音色は輝きに満ちていて、高音から低音まで全く均質、ピッコロ特有の時としてプリミティブに響く部分などは皆無であるのに驚かされます。そして、表現の幅の、なんと広いことでしょう。特に、この楽器の場合はコントロールがとても難しいはずのピアニシモをきっちり聴かせてくれるのには、さすが、としか言いようがありません。
それに続いて演奏されているのが、バッハのト短調のフルートソナタです。ヴァイオリンで演奏されることも多いこの、殆ど偽作とされている曲を、時任さんはテレマンと同じく、最近流行のいかにも「バロック」という先鋭的な表現ではなく、伝統的なかなりロマンティックなアプローチで、慈しみ深く歌い上げています。それだからこそ、ピッコロという楽器を殆ど感じさせない、ゆったりとした味わいが堪能できるのでしょうね。
「星々の記憶へ I」という、清水研作という作曲家によるピッコロ・ソロのための2006年の作品は、まさに時任さんの繊細なピッコロを想定して書かれたものなのでしょう。ピッコロ版「シランクス」もしくは「デンシティ21.5」といった趣の、特に難解な作曲上の技法や、超絶技巧をひけらかすようなことはせず、淡々と進んでいく曲です。
そして、メシアンです。この曲ではピッコロでは出せない低音の「C」が使われているので、それが出てくる2箇所だけは1オクターブ(というか、正確には2オクターブ)高く吹かれていますが、そんなことは言われなければ分からないほど、見事にピッコロに馴染んだものになっています。考えてみれば、メシアンが聴いていた鳥の声は、実際はフルートの音域よりははるかに高い音のはずですから、ここで初めて「リアル・クロウタドリ」が出現した、ということになるのではないでしょうか。
オーケストラのピッコロと言えば、いかにも華やかなもののような印象があります。ですから、今まで何度か聴いてきたピッコロ奏者のソロアルバムでは、そんな華やかさを前面に出した技巧的なパッセージ満載の曲が選ばれていたものでした。もちろん、それはこの楽器の主たる属性ではあるのですが、それだけにはとどまらない別な側面もあるということを、時任さんはここで見せつけてくれました。それこそが、真の意味の「Virtuoso」なのでしょうね。このようなしっかりとした技術と音楽性の裏付けがあるからこそ、オーケストラの中のいかにも「目立つ」ところでも自信を持って演奏することが出来るのでしょう。
一つだけ残念だったのは、テレマンのソナタの第3楽章で、高音の「G」の音程が決まらなかったのがそのまま録音されていることです。ライブではないので、録り直すことは可能だったはず、これは、ミスをみすみす見逃した現場スタッフの責任でしょう。

CD Artwork © Veritas Ltd.
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by jurassic_oyaji | 2010-10-17 22:28 | フルート | Comments(0)