おやぢの部屋2
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MUHLY/A Good Understanding
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Kimo Smith(Org)
Grant Gershon/
Loa Angeles Master Chorale
DECCA/478 2506




ニコ・ミューリーという、1981年生まれのアメリカの作曲家の合唱作品を集めたアルバムです。まだ20代、しかし、これからどんどん頭角を現してきそうな予感の、新鋭です。そのうちノーベル賞を取ることでしょう(それは「キューリー」)。彼は、最初はコロンビア大学でイギリス文学を学びますが、そのあとジュリアードの大学院に進み、そこでジョン・コリリアーノなどに師事したそうです。さらに、フィリップ・グラスのアシスタントのような形で、さまざまなコラボレーションを行ってきました。なんと、あのアイスランドの鬼才ビョークなどとも共同作業を行っているのだとか、現代アメリカならではの、広範なジャンルでの活躍ですね。その流れでは、当然映画の音楽なども手がけています。
しかし、彼自身は小さい頃は聖歌隊に属していて、ルネサンスから現代までの合唱音楽に接してきたことが、音楽性の形成に大きな影響を持っていると考えているようです。ライナーでは「合唱音楽を書くことは大いなる喜びだ」と語っていますね。
そんな彼の作品は、確かに教会音楽をルーツに持っていることを感じることは出来ます。「Bright Mass with Canons」というのは、そんなフルミサに近いものです(Credoがありません)。しかし、そのイントロから現れるオルガンによる装飾は、かなり「前衛的」なテイストを持ったものでした。ハチャメチャなオルガンに対して、シンプルな合唱というスタンスなのかもしれません。「カノン」と言っていますが、それはまるで「ディレイ」のように聞こえるのが、「現代的」な仕掛けなのでしょうか。それは、古典的な対位法を味わわせるのではなく、平坦なメロディに「翳り」を加えるもののように思えます。最後の「Agnus Dei」は、本当に美しい音楽です。
彼の本領が見えてくるのは、「Senex puerum portabat 老人は、幼子を抱いた」という、キリスト生誕の聖歌です。流れるようなメロディの裏では、単音のオスティナートが歌われていて、なにかミニマルっぽいテイストを醸し出しています。そのうちに、合唱には金管アンサンブルが加わって、さらにミニマル感が増してきた頃、合唱はテキストを各々が不確定に歌うという、ちょっと懐かしい手法が現れたりします。そこには、ペルトやタヴナーといった、殆ど「主流」となったかに見える宗教曲の流れの中に、決して甘くはならない様な決意の杭を打ち込んでいるようにも感じられてしまいます。最後に収録されている、これは「Expecting the Main Things from You」という世俗曲ですが、ここでの伴奏の弦楽四重奏がいきなりクセナキスのようなグリッサンドを聴かせてくれたりしますしね。
タイトル曲の「A Good Understanding」は、詩篇の英訳がテキストに用いられています。ここにはオルガンの他にパーカッションが加わり、色彩的でダイナミックなサウンドが、このウォルト・ディズニー・コンサートホールいっぱいに広がります。そう、この、豊田さんの音響設計になる卓越したアコースティックスを誇るホールでの録音というのが、さらなる魅力を与えてくれます。決してうまいとは言えないこの合唱団(「ミサ」の中の「Gloria」冒頭の女声などは、悲惨そのものです)が、この美しい響きの空間の中で、とてもしっとり聞こえるのですからね。オルガンの重低音や、パーカッションのエネルギー感や繊細さ、さらには弦楽器の肌触りなどが、とても贅沢な音響となって迫ってきます。
ただ、なぜかそれぞれの楽器や合唱が平板に聞こえてしまうのは、やはりCDの限界なのでしょうか。手元に、同じエンジニア(フレッド・フォーグラー)が同じホールで録音したSACD(サロネンの春祭:DG/477 6198)があったので聴いてみたら、まさに「立体的」な音場が味わえましたが、そのアルバムのCDレイヤーでは、やはりこのミューリーのような平板なものでしたからね。

CD Artwork © Decca Music Group Limited
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by jurassic_oyaji | 2010-11-05 21:58 | 合唱 | Comments(0)