おやぢの部屋2
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MISKINIS/Choral Music
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Rupert Gough/
The Choir of Royal Holloway
HYPERION/CDA 67818




このページでは初登場、ヴィタウタス・ミシュキニスという、一見ギリシャ人のような名前ですが、実はリトアニアの作曲家の合唱曲のアルバムです。エストニア、ラトビア、リトアニアという、いわゆる「バルト三国」は「合唱王国」として知られています。この方も、合唱界では非常に有名な人なのですが、普通のクラシック・ファンにとってはまずなじみのない作曲家、こういう人を丁寧に紹介してくれているこのレーベルには、いつも頭が下がります。
ミシュキニスは1954年生まれ、合唱団員として歌ったり、合唱の指揮者として多くの合唱団を育てたりといった、演奏家としての実績が輝かしい上に、合唱曲の作曲家として夥しい数の作品を産み出しているという、すごい人です。さらに、それほどのお年ではないのですが、現在は「エストニア合唱連盟(?)」の会長という要職を務めておられるのだとか、おそらく人望も厚いのでしょう。低い棒の下をくぐるのも、うまいかも(それは「リンボー」)。
ただ、えてしてそんな「偉い」人の場合、出来た作品はそれほど面白くない、ということがあるものです。誰とはいいませんが、まわりにそんな人、いませんか?
しかし、ご安心下さい。ミシュキニスが創りだした音楽は、確かなオリジナリティと、人を惹きつけずにはおかない魅力を持ったものだったのです。また一人、好きな作曲家が増えました。
このアルバムに収録されているのは、すべてア・カペラの作品です。そこでは、人の声だけの集団が作りうる格別の魅力が満載です。まずはその色彩的なハーモニー。おそらくメシアンあたりによって頂点が極められた手法であろう、密集した房状の音符が醸し出す、まるで万華鏡のようなキラキラした音のかたまりは、それだけで豊穣な世界を見せてくれます。7つの小さな曲で出来ている、この中で最も長い作品「Seven O Antiphons」では、そんな色彩の7通りの様相を楽しむことが出来ますよ。
この人の作風は、多岐にわたっています。そんな中で、小さなモチーフをオスティナート(あるいは「リフ」といった方が適当なのかもしれません)風に扱って、その上で息の長いフレーズを展開させる、というのがお気に入りのようですね。ミニマル・ミュージックを思わせるこの手法は、そのミニマルが持っていたはずの原初的なリズムを感じさせてくれるもの、そこからは新しいけれども、なにか懐かしい思いを抱かせられるものが、確かに感じられます。この中では、「Pater noster」や「O magnum mysterium」、「Salva regina」あたりに、そんな要素が含まれているでしょうか。現代的なポリフォニーとも言えるこの手法では、クラスターでさえしっかりと意味のある暖かみを感じられるものになっています。
さらに、リトアニアの民族性に根ざしたモチーフも、見逃すわけにはいきません。パンパイプの一種、「スクドゥチャイ」というリトアニアの民族楽器をフィーチャーした「Neiseik, saulala」などでは、ソプラノ・ソロによる哀愁に満ちた素朴な歌が心の琴線をくすぐります。
そんなさまざまな様相を見せるミシュキニスの作品ですが、そのベースにあるのはやはりとことん合唱に浸りきっていた彼自身の体験なのでしょう。合唱でどれだけの表現が可能なのかを、そして、実際に歌う立場になったときにどれだけの「喜び」を味わえるかと知り尽くしている人が作った曲が、面白くないわけがありません。
「ロイヤル・ホロウェイ」という、ここで歌っている合唱団は、CDで聴くのはおそらくこれが3回目、そのたびに印象が異なって聞こえるという、ちょっとつかみ所のない団体です。おそらく、作曲家への対応が非常に敏感なのでしょう。ここでも、ミシュキニスの特質が、最良の形で伝わってきていました。特に、ハーモニーに対する感覚は、ちょっと過剰すぎる残響とも相まって、とても繊細に聞こえます。

CD Artwork © Hyperion Records Limited
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by jurassic_oyaji | 2010-11-19 20:42 | 合唱 | Comments(0)